オトナの食育
誰も儲からない 知ってて得する食の情報
第5回 2006/6/10号掲載 千葉悦子(高28)
バランスのよい食生活 その5
脂質の過剰摂取を避けるには Ⅲ
「新種の油・機能付き油」は誰にでも安全で有効か?・脂質のまとめ
今年は5月に雨が多く、比較的低温でした。 自分や近所のこどもたちが外遊びを十分出来ず、気管支炎というほど重くはないし熱もないけれど、軽い咳が少し出て本調子でない、そういう5・6月が何度かあったと思い出します。 子育て中の後輩には、そういう心配を抱えたグレーな日々が誰にでもあるということをお伝えし、子育てのエールを送りたいと存じます。 男性の後輩には「うちの子はそんなに弱いのか!」などという言葉は、奥様に対し禁句ということも申し添えたいです。多くの子に見られることで、子育てを主に担っている母親を責めるのは、得策ではありません。 バランスの良い食生活を心がけ、特にこどもには早寝が出来る環境を整え、楽しい生活をお送りください。幼いこどもの健康問題は、時が解決する、つまり成長とともに解消することがずいぶんあります。 また、梅雨時なので、言い古されたことですが、食中毒に気をつけましょう。日本は諸外国に比べ衛生的ですが、食品添加物・残留農薬・容器や包装からの溶出物などといった問題より、食中毒の方が個人にとりましては当面の問題です。 前回に引き続き、化学や生物の授業に近くなる内容で恐縮ですが、校訓「忍」を思い出し、再度お付き合いください。 Ⅰ新種の油・機能付き油とは? 私の知るところ、主なタイプは次の3つでしょう。他に、DHAがたくさん入っているタイプ、ハイオレイックの油(オレイン酸を従来の種より多く含むように作物自体を改良し、それを原料にして作る)といったものもスーパーマーケットで見かけますが、今回は次の3タイプに絞って話します。なお、商品名はなるべく控えたいですが、今回は書きます。そうしないと、ぴんと来ないからです。私の「同窓会という場を商品の宣伝にしたくない」という気持ちは、理解して頂きたいです。 (1) ジアシルグリセロール 花王のエコナ (2) 中鎖脂肪酸 日清オイリオのリセッタ (3) 植物ステロール ・ 花王のエコナの複数の商品の中には、ジアシルグリセロールと この植物ステロールと両方含むものがある ・ 日清オイリオのヘルシーコレステ ・ 味の素の健康サララ ・ 他にもあるかもしれませんが、調べ切れません。 書けなかった商品関係者には、お詫び申し上げます。 (1) ジアシルグリセロールとは 前回1.脂質の化学構造のところで、脂質の基本形と言えるトリアシルグリセロール(トリグリセリド、中性脂肪の主なもの)は、グリセロール(グリセリン)に脂肪酸が3つ結合したもの、と書きました。 ジアシルグリセロールは、グリセロールに脂肪酸が2つ結合したものです。自然界の脂質のざっと9割はトリアシルグリセロール、1割未満がこのジアシルグリセロール、それに他の脂質も少量あります。「昔からずっと食べてきた油に含まれている成分なので、安心です」というのが、企業側の説明の一つですし、たしかにそれ自体は説得力があるように思えます。 「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学」p.54によると「ジアシルグリセロールを食事の中でとると、トリアシルグリセロールと比べて血中中性脂肪、内臓脂肪、肝脂肪の量が減り、体脂肪率が低下する。 このような効果を期待して、ジアシルグリセロールからなる食用調理油が特定保健用食品として認可されている。」ということです。 (2) 中鎖脂肪酸とは 一般的な脂肪酸(たとえば前回書きましたα-リノレン酸やリノール酸は炭素数が18個です。)に比べ炭素数が少なく、炭素が8~10個の脂肪酸を中鎖脂肪酸といいます。広義には炭素が6~12個ですが、商品になっているものは8~10個が主のようです。 普通の脂肪酸である長鎖脂肪酸は、分子が大きいので、リンパ管・静脈を通って脂肪組織、筋肉、肝臓に運ばれ、分解や貯蔵されます。が、この中鎖脂肪酸は分子が小さいので、糖やアミノ酸と同じように、そのまま門脈(肝臓に通じる)から血流へ入ります。そしてすみやかに分解されてエネルギーとなり、体脂肪が減少し、体重も減少するということです。 このように吸収経路が異なるので、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールは医療用にかなり前から使われていたそうです。が、生なら使えますが、分子量が少ないため発煙点が低く、加熱調理には使えないので、企業が比較的最近、使いやすい形に開発したということです。 また、牛乳・人乳(母乳)・パーム核油・やし油等の天然の食品にも少し含まれています。 (3)植物ステロールとは 「スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学」p.74に、[植物ステロールは米ぬかやなたね油などに多く含まれており、β‐シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなどがある。これらの植物ステロールは吸収されにくく、コレステロールと共存するとコレステロールの吸収を妨げる。]とあります。 コレステロールと似た構造の植物ステロールは、いわば、椅子取りゲームの勝者のように、コレステロールを追い出すイメージです。 (4)より詳しいことはそれぞれの商品のネット上の説明をご覧ください 上記3社とも、しっかり説明しています。特に、花王や日清オイリオの油の説明や健康・栄養情報が充実しています。花王は、油の消化・吸収などについて、わかりやすい動画が何種類もあります。一方、日清オイリオは女性用の健康・栄養情報が充実しています。どちらも単なる商品説明に留まらず、日本人の栄養状態の問題点を、厚生労働省国民栄養調査結果をグラフにして解説し、商品の背景もわかるようにしています。 なお、花王「栄養代謝の研究開発」の長い説明の最後に、太字で「前提は生活習慣を整えること」とあります。その文章の中に、中学の家庭科教科書にあり、第1回で書きました、「食事・運動・休養」に加え、成人向けなので、禁煙等を加え、「そういう生活習慣を整えることが前提であることは言うまでもありません」とあります。 本当に健康について考えて対策を講じるなら、油に限らず、ご自分にとっての新商品がご自分や家族に合っているかどうかを判断するために、パッケージだけでなく、ネット上の詳しい説明を最後まで全部読まれることをお薦めします。 Ⅱ新種の油・機能付き油は誰にでも安全で、有効か? ・・・こどもには要注意・糖尿病をはじめご病気をお持ちの方は専門家に相談を 私は「誰にでも」ということについては、疑うべきと考えます。 家庭科で保育分野を教える際、「乳幼児をはじめ、こどもは大人を小さくしたものではない。質的な違いがある。」ということが、柱といってよいほどです。 特定保健用食品の意味から考えましょう。 エコナ・リセッタ・ヘルシーコレステ・健康サララなどは、トクホです。トクホとは、特定保健用食品の略です。特定保健用食品の説明は「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学」p.54に〔厚生労働省が制定している保健機能食品の中の一つで、食生活において特定の保健の目的で使用する人に対し、その保健の目的が期待できる食品をいう。〕とあります。 日本の法律では、薬事法によって「効能」「用法」「用量」といった、いわゆる薬について書くようなことを、薬以外のもの、たとえば食品に書いてはいけないことになっています。特定保健用食品というのは、あくまで食品でして、はっきり効能等はうたえません。それで「コレステロールが高めの方の食品」「食後の血中中性脂肪値が上昇しにくく、体に脂肪がつきにくい食品」といったやんわりした表現になるはずです。 実際には、私が最近購入した健康サララには商品名の隣にかなり大きな字で「コレステロールを下げる油です。」と書いてあり、さらに店頭で見かけたエコナにも同じことがパッケージにあり、難しいと思います。 特定保健用食品は、ただの健康食品よりずっと信頼が置けるのは確かです。日本のエリート集団である厚労省のお役人が監督していて、企業に対し、効果や安全性についてのしっかりしたデータを求めるそうです。トクホをとるには、数億円あるいはそれ以上の資金がいるという話を耳にします。 しかし、実生活では「食生活において特定の保健の目的で使用する人に対し」の部分をすっかり忘れていませんか?コマーシャルに乗せられ、「誰にでも良い食品」とすり替わっていませんか? 太め、血中の中性脂肪やコレステロールの高い中高年の家族、多くは中高年のお父さんのために機能付き油を買い、2種類の料理を作るのは面倒なので、こどもも含む他の家族の分も同じ機能付き油に切り替わっていませんか? こどもの栄養について、気になることがたくさん書いてある本を見つけました。この本の著者の他の著書も知らなければ、著者に直接お目にかかったわけでもなく、どの程度信頼が置けるか私には不明ですが、 「こういう説もある」ということをお伝えします。 「学術選書002 子どもの脳を育てる栄養学」のp.103に次のように書いてあります。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 肥満を防止するために人工的に処理したさまざまな食用油が売り出されていますが、これを脳の成長期にある子どもたちに成人と同様に与えてよいかに関してもよく見極めなければなりません。 たとえば、「健康エコナ」は中性脂肪から脂肪酸をひとつ除いたジアシルグリセロールです。これは、消化管からの吸収効率が悪いため、食べても肥満になりにくい脂肪の一種であると宣伝されています。しかし、この取り除かれた脂肪酸の位置には必須脂肪酸が結合していることから、子どもの脳の発育には適していません。また、このジアシルグリセロールは確かに消化管から吸収されにくく、そのためこればかりを食べていると、脂肪に溶けて吸収される脂溶性ビタミン類が体内に取り込まれにくくなります。また、「ヘルシーリセッタ」は中鎖脂肪酸のみで、必須脂肪酸は含まれていません。脂肪はできるだけ自然食品、あるいはできるだけ人工的に手を加えていない食用油からとりたいものです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 上記の最後の方の[「ヘルシーリセッタ」は中鎖脂肪酸のみ]は、「こんなおもしろい脂肪があった!」の144ページを読むと、否定されます。 「こんな・・・」の著者である近藤和雄氏はリセッタの人に対する効果を検証する実験を監督なさったので、リセッタのことについては、非常に信頼が置けると考えます。 「こんなおもしろい脂肪があった!」の144ページの一部を次に写します。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中鎖脂肪酸が三つついたトリグリセリドと、長鎖脂肪酸のトリグリセリドとを、エステル交換技術を使って、お互いの脂肪酸の一つまたは二つを交換させます。そうすると、前ページの図のように、中鎖脂肪酸が二つと長鎖脂肪酸が一つついたトリグリセリドと、中鎖脂肪酸が一つと長鎖脂肪酸が二つついたトリグリセリドができます。 この中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸が同居したトリグリセリドは、分子量が大きいので、熱したときに発煙したり、泡立つということもなくなります。 これなら、汎用性のある油としてなんの問題もありません。こうして誕生したのが、中・長鎖脂肪酸の油なのです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さらに「こんなおもしろい脂肪があった!」の152・153ページに驚くことが書いてあります。次を糖尿病の方はお読みください。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 体脂肪を減らす効果から見て、糖尿病の人は中鎖脂肪酸を使うときは医師に相談するなどの注意が必要かもしれません。 というのは、脂肪が燃えるとケトン体という物質ができるからです。このケトン体は、中鎖脂肪酸をとったときにかぎらず、運動をしたりして体脂肪が燃焼したときは、その副産物としてかならずできるものです。 通常は、尿から排出され、なんの問題もありません。 しかし、重度のインスリン依存症糖尿病の場合、糖をエネルギー源としてうまく利用できないため、血液中には糖がダブついていて血糖値が高いにもかかわらず、体は体脂肪を燃やしてエネルギーを得ようとします。肥満と糖尿病の発症は深い関係にあり、ダイエットをして適正な体重にもどすだけでも血糖値が下がることも多いのですが、糖尿病の人がみるみるやせていくケースは、糖が利用できないために体脂肪を燃やしているためで、これは非常に危険な状態なのです。 というのも、体内に大量にケトン体ができてしまい、血液が酸性に傾いて、昏睡などを引き起こすことがあるからです。そうなると、生命の危機にもかかわってきます。そのため、インスリン依存性糖尿病の人は血糖値だけではなく、尿中のケトン体の量にも注意する必要があるわけです。 体脂肪を減らす効果のある中鎖脂肪酸のような油をとるときも、血糖値のコントロールがきちんとできている人ならそう心配する必要はないと思いますが、体脂肪を減らす効果が高いだけに、一応その量には注意したほうがいいと考えられるのです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「言わないウソ」にご用心 以上のことを私が知りました2年ほど前に、日清オイリオのホームページの油のところを見ましたときも、今回この文章を書くために見ましたときも、上記の注意事項は見当たりませんでした。ひょっとしたら、「こんな・・・」の本が出版された後、心配なしのデータが出たのかもしれませんが、私にはそういう医学論文を探す技術も元気もありません。 その程度の人が書いているということも、お含み頂きたいと存じます。 しかし、もし本当なら、「言わないウソ」の一種と考えられます。小学校か中学校の国語の教科書に「言わないウソ」についての文章が載っていて、こども心にも「なるほどなぁ」と感心したものです。私は三島市の小中学校でした。私と近い年代の方々は同じ教科書でしょうから、思い出しませんか? もっとも、久しぶりに会った女性の友人に「お互い歳をとりましたね」などと正直に話すより、触れない方が良いでしょう。「言わぬが花」という場合もあるでしょう。むしろ「ちっとも変わらないね(そそっかしい、おせっかい、気が利かない、単純等、行動や精神面で)。」などと言うと、にっこりし、飲み物・食べ物を運んでくれたり、何かと気を使ってくれたりするかもしれません。余談になりました。 Ⅲ新種の油・機能付き油との付き合い方 「こんなおもしろい脂肪があった!」の上記の箇所が気になり、食物科の有能な後輩2人に聞いてみると、糖尿病の人の中にはリセッタが合わない人がいる、などということは知りませんでした。「私たちが知らないということは、きっと一般の人は知らないでしょうね。」と話しました。 さらに、親戚の糖尿病の方に聞くと「リセッタにしている」とのことでした。「お医者さんに聞いてみる方が良いと思います。」と言うと、「そうね、親戚の方に『一度専門家に食事のこととかよく相談した方が良い。』と勧められているのだけど、まだ実行できていない。」とのこと。たしかに、「油の種類がどうの」と言う前に、食事全体を見直す方が先でしょう。 また、子育て仲間であり、ご主人が糖尿病の友人に聞くと「リセッタに変えたのよ。知人のお子さんが肥満で、リセッタにしたら、それだけでやせたって聞いたから。でも、主人はこのところ家で食事したことがないから、大丈夫。」とのこと。私は安堵するとともに、家で食事できないほどお忙しいご主人の生活を、すさまじいと思いました。生活全体を見直すことも、現実には難しいけれど必要ですね。なお、このご夫婦は現在三島にお住まいで、お子さんは韮校生です。 このように、私の精神的に身近な人も、機能付き油を使用しているとわかり、放置できないかも・・・と思い、当初の計画より1回増やしてこのような文章を書くことにしました。 「溺れる者はわらをもつかむ」という心境はわかります。しかも、トクホはたしかに「特定の保健の目的で使用する人に対し、その保健の目的が期待できる食品」なのですから、それなりの意味はあります。 しかし、複数の家族と一緒に生活する場合、他の家族のことも考えなければなりません。十分な情報が得られず、不安な面のある食品は、経済的問題がなければとりあえず避けるというのも、実生活には必要と私は考えます。すると、機能付き油が使われている「マヨネーズ」「ドレッシング」といった商品に案外意味があると思います。食卓で各自がかけるものなら、容易に家族一人ひとりに対応できるからです。しかも少量のタイプが市場に出ているのを見ると、生活に合っていると思います。前回書きましたが、酸化した油は怖いので、使う人数が少ない場合は特に、早めに使い切る少量タイプが安心です。 さらに、デパ地下の惣菜チェーン店で、機能付き油を使っている店がありますが、たまに購入するならともかく、日常的に使うなら、チェックの必要があるでしょう。 Ⅳ脂質のまとめ・・・脂質以外の栄養素等にも応用を エコナやリセッタなどのネット上の説明は、立派で充実しています。食物科の恩師が退官後お勤めされている大学の他の先生方も含め、名前・肩書き・写真入りで、大学教授が健康や栄養のお話を載せています。 そういうのを読むと、正直なところ、私が書く意味があまりないように思え、むなしいです。けれど、今回、企業のホームページに載っていないことも書け、多少皆様の役に立つかなと存じます。また、私は企業勤めでない個人であるという点で企業とは立場が違いますし、食を職業にされていない方々にとってみれば、どういう情報を受け取ればよいか、どういう点に注意すればよいか自体を気づきにくいでしょうから、私のこのシリーズもそれなりに意味があるかな?と思います。 前回書きましたが、どの脂質も脂質共通の問題があり、前前回PFC比率のところで書きましたように摂り過ぎれば肥満・高脂血症等の問題が起こります。「機能付き油だから揚げ物を食べても大丈夫」と安易に考えず、機能付き油は従来の油より少し良いけれど、根本的には脂質であるという事を忘れないようにしたいものです。そして、第1回に書きましたような、当たり前とも言えるバランスの良い食生活を心がけ、休養と運動も大事にしたいものです。 それにしても、機能を付け、つまり付加価値を付けて安売り競争から逃れ、普通の商品の2倍から数倍の価格で売るトクホというのは、企業にとって理想的な戦術ですよね。経済学など学んだことがなくても、それくらいはわかるというもの。トクホは今後も増え続けるでしょう。 今回油を取り上げましたが、他の食品についても同じことがいえる場合がありそうです。12歳以下のお子さんを持つ方で飲食物について気になる方は「学術選書002 子どもの脳を育てる栄養学」をお読みください。 |
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お薦めの料理・・・いつものポテトサラダをグレードアップ 帝国ホテル故村上料理顧問に学ぶ 油の低減を考えますと、和食の野菜料理、たとえば野菜の煮物・お浸し・塩もみ・酢の物を含めた和え物(胡麻和え・白和え等)がお薦めです。が、こどもの頃は酢の物が苦手のことが多いようです。私自身、わかめときゅうりの酢の物が小学校の給食で出ると、涙を浮かべながら食べたものです。ところが大学の調理実習で作ったら、「こんなにおいしいものなのだ!」と思いました。 若い人やこどもの場合、マヨネーズ味なら食べられる人が多い現実や、野菜やいもの摂取量が少ないという問題から、また、よく食べられているという面から、ポテトサラダを取り上げます。 皆様はご自分でポテトサラダを作る時、他にどんな材料を入れますか?よくあるのは、きゅうりまたはグリーンピース、にんじん、たまねぎ、ハムというところでしょう。後は、ゆで卵のみじん切り、干しぶどう、トウモロコシ、パセリのみじん切りでしょうか・・・「村上信夫の究味ゼミナール」p.64に次のようにあります。[私の先生、アンリ・ル・ジュールが「サラダにならない材料は何もない。」と言っているほど、今では、いろんな材料を使ったさまざまなサラダがあります。]。 「近頃、料理がワンパターン。」とお思いになったら、いつものポテトサラダの材料を見直してください。 昨年6月の関東支部同窓会では、村上氏のにこやかなお姿を拝見できました。先日の同窓会では、それはかなわぬことでした。関東支部同窓会が長年直接お世話になりました村上氏を悼みまして、著書からポテトサラダのコツを写します。 今では、一般的に料理のコツはネット上にもあり、かなり多くのことが公開されています。が、村上氏の若い頃は「秘伝」といった感じで、大事なところは見せないようにし「昼飯だ。行け行け」と追い出され、村上氏たちが戻ると味つけが終わっていたそうです。 以下は、村上氏の出征前に餞別として秘伝のレシピを教えていただいた、その1つだそうです。「帝国ホテル厨房物語 私の履歴書」p.73から写します。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「兵隊に行くんだろう。イモサラ(ポテトサラダ)教えてやるよ」と言う。吉田親方のイモサラは絶品だが、作り方は秘伝で、親方しか知らない。 「イモが熱をもっているうちにフレンチドレッシング、なければ酢であえるんだ」。厨房で親方はてきぱきと説明し始めた。「熱いイモは吸い込みがいいんだよ。塩コショウはそれからだ。マヨネーズであえて、冷蔵庫できっちり二時間寝かせろよ」。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さらに、「村上信夫の究味ゼミナール」のp.64から写します。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ まず、ジャガイモは皮のまま水からゆで、そのまま冷やし、皮をむきます。タマネギは薄切りにし、塩をふってもみ、よく洗い絞っておきます。ジャガイモに温かみの残っているうちに、このタマネギをまぜ、そして、ここがポイントですが、フレンチドレッシングを混ぜるのです。 あとはご存じのようにマヨネーズで和え、最低二時間は冷蔵庫で寝かせれば出来上がりです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 実際に酢を加えて作ってみたところ、米酢では香りが強過ぎる感じがしました。洋食ですから、書いていなくてもワインビネガーとかリンゴ酢といった洋風の酢でしょうね。気のせいか、そういう酢の方が合っています。なお、酢は食中毒を抑えますので、これからの暑い時期、サラダに限らず上手に使いたいものです。 また、フレンチドレッシングを使うと、おいしくて「お外の味」と感じます。しかし、フレンチドレッシングは酢1に対し、サラダ油2~3の割合でして、油が多くなるのが心配です。もっとも、フレンチドレッシングもマヨネーズも、控えめに使えば問題ないのかもしれません。 それにしても、近年生徒や若い人たちが、マヨネーズたっぷりのポテトサラダを好むのが、問題の一つでしょう。京都大学教授伏木亨先生は、なんでもマヨネーズをかける人たちを「マヨラー」と呼んで、問題視なさっていますね。 以前勤務していた学校で生徒にポテトサラダを作らせると、教員が準備したマヨネーズを使いきり「足りません」と言われました。これは、たんにマヨネーズが好きなだけでなく、塩味を加減するために入れたのかもしれません。最近のマヨネーズは減塩してあることが多いようですから、味を調えるとき、塩コショウを忘れないようにしたいものです。高血圧や腎臓病などで、塩分を制限しなければいけない方はともかく、そうでなければ、脂質の取り過ぎを心配するのが先でしょう。 ポテトサラダは最後にマヨネーズで和えるので、マヨネーズの種類を変えて2種類作るのが比較的容易です。機能付き油のマヨネーズと従来の油のマヨネーズと、両方作ることが、実際になんとかできそうです。 とは言え、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。油を使ったドレッシングやマヨネーズばかりの野菜の食べ方に偏らず、そうでない食べ方を大事にしましょう。 |
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■引用文献 「スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学」久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2003) 「スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学」倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・藤原葉子編 東京化学同人(2004) 「こんなおもしろい脂肪があった!」体脂肪を減らす「中鎖脂肪酸」 近藤和雄著 ジーオー企画出版(2003) 「学術選書002 子どもの脳を育てる栄養学」中川八郎・葛西奈津子著 京都大学学術出版会(2005) 「帝国ホテル厨房物語 私の履歴書」村上信夫著 日本経済新聞社(2002) 「村上信夫の究味ゼミナール」村上信夫著 東京書籍株式会社(1989) ■参考文献等 「5訂増補食品成分表2006」女子栄養大学出版部(2005) 「スタンダード栄養・食物シリーズ3 人体の構造と機能 Ⅱ.生化学」近藤和雄・脊山洋右・藤原葉子・森田寛編 東京化学同人(2003) 「スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学」本間清一・村田容常編 東京化学同人(2004) 「スタンダード栄養・食物シリーズ10 応用栄養学」近藤和雄・鈴木恵美子・脊山洋右・藤原葉子編 東京化学同人(2005) 「改訂調理用語辞典」社団法人全国調理師養成施設協会編(1998) 「新しい技術・家庭 家庭分野」(中学の家庭科の教科書) 編集代表 石田晴久・加藤幸一・渋川祥子 東京書籍 (2002) 2006年5月28日の花王のホームページのエコナの説明 2006年5月29日の日清オイリオのホームページのリセッタ・ヘルシーコレステの説明 2006年5月29日の味の素のホームページの健康サララの説明 |