オトナの食育
誰も儲からない 知ってて得する食の情報 
第3回 2006/2/10号掲載    千葉悦子(高28)


バランスのよい食生活その3
脂質の過剰摂取を避けるには Ⅰ 成人中心


 1年で1番寒い時期となりました。こういう時期には、温かい食べもの・飲み物はもちろん、エネルギーがたくさん取れる脂質の多い食品を使った料理、たとえば、肉入りシチュー・豚ばら肉と大根の煮物・東坡肉(中華料理、豚ばら固まり肉の柔らか煮)等がおいしく感じられます。体が要求するのでしょう。
 毎日外にいて農作業で体を動かした時代なら、上記のようなものを食べても、問題は起きなかったかもしれません。今でも、そういう厳しい生活なら、しっかり食べる必要があるでしょう。
 しかし、暖房の効いたオフィスで、デスクワークをなさっていて、運動をなさらず、さらに、忘年会・新年会で飲み過ぎ・食べ過ぎの12・1月をお過ごしなら、上記のようなメニューはたまに召し上がるようにしましょう。
 この理由は以下の本論及び次回で述べます。

1. エネルギーが適正なら、炭水化物・脂質・たんぱく質の内訳は
  どのようでもよいのでしょうか?


《1》 食生活全体、栄養全体をまず考えましょう。
 食生活を考える場合、いきなり細かな問題、たとえば「赤ワインやココアが体に良いそうだ」といったことを考えるのは、木を見て森を見ないことになります。
 栄養を考える際は、まず、五大栄養素のおさらいから。エネルギーとなるのは炭水化物・脂質・たんぱく質の3つです。無機質・ビタミンはエネルギーにはならず、おもに体の調子を整えます。なお、無機質はたんぱく質・脂質とともに体の組織をつくります。
炭水化物・脂質は炭素・酸素・水素から成り、たんぱく質は窒素が加わります。体の中で炭水化物と脂質は互いに作り変えることが出来ます。たんぱく質は、炭水化物・脂質から作ることは出来ないので、その分量が問題となってきて、ずっと以前から給食の献立表とかで記載されてきました。
なお、炭水化物・たんぱく質は1g当り約4kcal、脂質は9kcalの熱量がありますので、脂質の取り過ぎは、エネルギーの取り過ぎにつながりやすいです。

《2》 PFC比率を適正に
 たんぱく質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)を
熱量に換算して相互の比率を計算したものをPFC比率といいます。日本人にとっての適正値は、P:F:C=12~13%:20~30%:68~57%とされています。日本では、明治・大正・昭和初期と、いわゆる貧しい食事―米・いもが多く、肉・卵・魚が少ない食事―で、脂質が少なく、感染症にかかりやすく、脳血管疾患で亡くなる人が多かったです。1960年代以降、PFC比率は改善されてきましたが、食生活の洋風化をはじめとする多国籍化が進み過ぎ、1990年頃から、平均値が日本人の成人における脂質の適正値20~25%(子どもは25~30%)を越しています。こういった傾向は、動脈硬化や糖尿病など生活習慣病を増やす要因となっていると言われています。

《3》 エネルギーやPFC比率の実際例
 現行高校家庭科教科書より具体例を示します。
教科書の名誉のために一言。たとえば、(4)の献立は「レストランの人気メニューを考えよう」 (6)の献立は「市販食品を考えよう」というねらいであり、「この献立が一番望ましい」などとは教えていません。
外食や市販食品、和・洋・中などの長所・短所を考えさせ、実生活を営むよう指導するつくりになっています。
和食
(1)親子丼(米100g、鶏肉40g)・豆腐とほうれん草の澄まし汁・
  わかめとしらすの酢の物
  エネルギー644kcal PFC比率のFの値17%
(2)ごはん(米100g)・じゃがいもとわかめのみそ汁・
  ぶりのなべ照り焼き (ぶり80g)・ほうれん草のごまあえ
  エネルギー785kcal PFC比率のFの値24%
洋食
(3)ビーフストロガノフ(米100g、牛肉100g)・フレンチサラダ・マドレーヌ
  エネルギー981kcal PFC比率のFの値35%
(4)ドリア(ごはん180g、米に換算すると80g程度、鶏肉20g・むきえび20g、
  たまねぎ・マッシュルーム入り)・ シーズンサラダ(レタス・きゅうり・セロリ
  ・トマトをフレンチドレッシングであえる)・ショートケーキ・アイスティー
  エネルギー1010kcal PFC比率のFの値44%
和洋折衷弁当
(5)おにぎり(米100g)・野菜の牛肉巻き(牛肉50g)・ひじきの炒り煮・
  鮭のマヨネーズ焼き(鮭40g)・さつまいものレモン煮
  エネルギー972kcal PFC比率のFの値33%
中華
(6)炒麵(中華蒸しめん1玉を炒めて盛り、豚肉30g・いか40g・
  野菜を炒めてあんかけにしたものをかける)・焼売(豚ひき肉50g)・
  牛ナイ豆腐(杏仁豆腐)
  エネルギー922kcal PFC比率のFの値38%
                  〔出典〕
                       (1)(3) 実教出版 家庭総合 003
                       (2)   実教出版 家庭総合21 004 
                       (4)(6)  開隆堂 家庭総合 005
                       (5)    一橋出版 家庭基礎 017


《4》 おいしいものには、脂質がたっぷり
 脂質を取り過ぎないようにするには、具体的には、どうすればよいでしょう?困ったことに「おいしい食べ物」は、脂質が多いことがよくあります。言い換えると、おいしさの主な要因の一つが、脂質を多く含むことなのです。
 たとえば、アイスクリームを思い浮かべてください。30度を超えるとさっぱりした、アイスキャンデーやかき氷をおいしく感じるとはいえ、そこまで気温が高くない場合、乳脂肪の多いアイスクリームが、少ないラクトアイスとかよりリッチな感じでおいしいですね。
 脂質の低い、硬いビスケットより、バターとかたっぷりのサクサクしたクッキーの方が、おいしいです。
パンも、特に若いうちは、脂質の多いパンをおいしいと感じるものです。健康のことなど考えなければ、食パンを食べるとき、バターやマーガリンをたっぷりつけたくなるでしょう。
 肉も霜降りとか、ロースとか、ばら肉とかの方が、脂肪の少ない赤身の肉より、たいていの人がおいしく感じるでしょう。
 魚も脂がのっているのが、高級でおいしいです。
 さらに、減塩の方法の一つが、「脂質を上手に使う」です。たとえば、野菜を醤油や塩をあまり使わずに食べる方法として、ドレッシングが挙げられましょう。塩分が少なくても、おいしくいただけます。
 ホワイトソースを使うのも減塩の方法の一つですが、ホワイトソースの中にバターがたっぷり入り、牛乳にも乳脂肪が含まれます。
 経済状態が良くなり食べ物を選べるとなると、「おいしいもの」を選びがちです。これは「エネルギーの食品群別摂取構成比」「脂質の食品群別摂取構成比」などの年次推移といった統計資料からも伺えます。


2.日本型食生活を大切に
 脂質以外のおいしさの要因としては、旨味が挙げられます。言い換えますと、だしの味です。みそ汁のだしに使う煮干しの旨味、澄まし汁に使う昆布やかつお節の旨味が代表的です。洋食・中華のスープストックや湯(タン)は、獣鳥肉やその骨、時には魚介類からとります。
 脂質たっぷりのおいしさに慣れている現代の日本人は、脂質の過剰摂取が体に悪いと知っても、おいしくないものは食べられないでしょう。
そこで、旨味を上手に使うことが無理なく脂質を減らす方法と考えられます。
 それから、ご飯をしっかり食べることです。ご飯に合うおかずは、脂質が含まれていない、あるいは少ないものがたくさんあります。
醤油や塩とだしの組み合わせがあれば、調理に油を使わなくても、また素材自体に脂質が少なくても、魚・肉・野菜等どれもおいしいです。
 ご飯は、細胞の中にでんぷんが含まれているので、でんぷんがむき出しになっている小麦粉や米粉を使ったパン・麺類・団子などより、消化吸収がゆっくりで、血糖値を急上昇させず体に良いし、太りにくいと言われています。
 また、炭水化物の量が減れば、全体に対する脂質の割合が増えますから、でんぷんをたくさん含むご飯を減らしてはいけません。
筆者が若い頃、「女性がご飯を2膳以上食べるのは恥ずかしい」(女は小食が可愛い)「ご飯をたくさん食べるのは貧しい感じで、恥ずかしい」という感覚がありました。
 こういった感覚は一掃しましょう。人前でご飯を1膳にして、脂質の多いおかずをたくさん食べ、一人でいるときにお菓子(脂質・塩・砂糖等がたっぷりの物が多いです)を多量に食べるのは、不健康です。
 ただし糖尿病や中性脂肪の多い方は、炭水化物のとり過ぎはいけないので、お医者さん・栄養士さんの指示に従ってください。

脂質の内訳は?
 これについては、次回に述べますが、動物性の脂肪は少なめにし、
植物性や魚の油をしっかりとることを心掛けましょう。

お薦めの料理
【白身魚野菜あんかけ】
■お薦めの理由■ 
  油を使わずに体に良い魚を調理する方法として提案します。いつも鍋物では、変化がありませんからね。しかも、野菜も同時においしく食べられます。
■ 注意点 ■
売り物にはならない料理です。デパ地下の惣菜は魚を揚げてから、あんかけにしてありますね。小麦粉とかつけて揚げておけば、型崩れしにくく、魚の身が縮みにくく、魚のうまみを逃さず、油や適度の焦げの風味がつき、よりおいしく感じるからです。
金目ダイ・マグロ等の多食について妊婦への警告が数年前、厚労省から出ました。大型魚は水銀といった重金属が蓄積します。ですが、魚のメリットも考えますと、「全然食べない」のはかえって赤ちゃんとご自分に悪影響があるでしょう。気にし過ぎず、適度にお召し上がりください。
■ 魚の選び方 ■
  新鮮な物をお薦めします。蒸し料理は、焼く・炒める・揚げるといった調理法に比べ、素材の風味が残り、不味成分は隠せないからです。
  筆者は先日、赤がれいで作りました。冬が旬のせいか美味でした。
 白身の魚なら何でも合うでしょう。
  2005年12月4日朝日新聞朝刊の「今さら聞けない 白身と赤身」
 の記事に「色素たんぱく質が多いと赤身」といった説明があり、「白身にみえるがじつは赤身・・・ブリ・カンパチ・ヒラマサ・シマアジ・サワラなど」と書いてあります。この場合、厳密に区別する必要はなく、サワラで作ってもおいしかったですし、お好きな魚なら、どれもおいしいことでしょう。
ただし、赤身魚の代表例のカツオ・イワシ・サバは、鮮度が落ちやすいので、この料理には向かないでしょう。
■ 応用 ■
  見た目を気にしなければ、野菜をもっと増やせます。にんじんは色も香りも強いので、バランスとして他の野菜を増やすことをお薦めします。
  中華風の味つけにしたい場合は、魚を蒸すときに、ネギ・しょうがを乗せておくとよいでしょう。また、だしを湯(タン)にします。
 手軽に作るなら、インスタントの中華風だしとかを使い、その中に塩分が入っているので、塩を控えめにします。野菜は、長ネギ・きのこ・たけのこ・もやし等も合っているでしょう。
  魚でなく豆腐を使ってもおいしい料理となります。豆腐は薄味で煮ておきましょう。お手軽に作るなら、電子レンジで加熱しておきます。
■ おまけの話 ■
  筆者は新婚の初夏、中華料理店でマナガツオを蒸して野菜あんかけにした料理を夫にご馳走になりまして、そのおいしかったことが懐かしいです。


■■材料分量・・・大人4人分■■
白身魚 4切れ 1切れの大きさは、骨のほとんどない切り身なら
          80g~100gが目安です。
          赤がれいの場合、それほど大きな魚ではないので真ん中に
          骨がある切り身でして、140gくらいあり、中1の男子や夫は
          ペロッと食べていました。が、食欲のないときは、多過ぎる
          と感じるでしょう。
塩   魚の1% 1切れ100gとすると400g×0.01=4g 大さじ4/5
酒   大さじ1程度

にんじん 50g(皮をむいた量)
しいたけ 50g 生しいたけなら2~3個
細ネギか長ネギ  30g
昆布だし 100ml
塩分   だしと具の0.8% (50+50+30+100)×0.008=約1.8g 
塩としょうゆを塩分について約1:1に分けるとして、
食塩   0.9g(小さじ1/5弱)、
しょうゆ 塩分0.9gを5倍して4.5ml(小さじ1弱)
片栗粉(実質はじゃがいもでんぷん)汁の5% 100×0.05=5g
                 小さじ1と1/2 
 
■■作り方■■
(1)魚を4切れ置ける少し深さのある皿に、魚を重ならないように乗せ、塩・酒で調味する。
(2)15分間くらい皿ごと蒸す。加熱時間は、魚の大きさ・温度とかによるので、かげんする。
(3)野菜は4㎝位の繊切りにする。細ネギなら、4cmの長さに切るだけでかまわない。
(4)昆布だしで野菜を煮る。ネギはにんじん・しいたけに火が通る頃入れると、緑色が鮮やか。
(5)塩・しょうゆで調味し、水溶き片栗粉(分量の片栗粉に少量の水を入れてかき混ぜる)を入れて、とろみをつける。少し硬い感じでOK
(6)大皿ごと盛り付ける場合は、(2)の上に(5)をかける。めいめいに分けるときは、少し深い皿に大きめのフライ返しとかを使い、身を崩さないように取り分け、魚から出た汁もかけ、その上に(5)をかける。


【ギリシア風煮サラダ・・・オリーブ油の風味をいかしたサラダ】
 現行高校家庭科教科書の東京書籍、家庭総合001・家庭基礎009に掲載されている料理です。今回の掲載に当たり、東京書籍に趣旨説明をし、そちらから女子栄養大学の先生にご了承を頂きました。レシピ等を転載される時は、東京書籍に了承をお願いなさってください。

■お薦めの理由■
  高校家庭科教科書19冊の調理実習を一つ一つ見て、「この料理を皆様にお知らせしたい」と直感しました。彩りがよく、遊び心があってありきたりの料理ではないのですが、材料自体は入手しやすいです。
従来、洋風料理には使われることの少なかった大根・れんこんが、おしゃれな洋風料理に変身しているところに感動しました。しかも生野菜と違い、一回に取れる量がかなり多く、健康的です。
  オリーブ油は、オレイン酸を多く含み、健康に良い油として注目されています。そういうところにも心配りが感じられます。
 本論で「日本型食生活をだいじに」と言いながら洋風料理ですが、たまには洋食も食べたいですよね。そういうときの野菜料理として提案します。
■ 応用 ■
  コリアンダーといった香辛料は入れなくても、それなりにおいしいです。干しぶどうを入れなくても十分おいしいです。つまり家族の苦手な食材は、入れなくてもOK。書いてある材料を全部そろえないとダメなどと気負わずに、気楽に料理してください。
■ 注意点 ■
  我家の中一男子は、この料理が苦手です。素材一つ一つは他の料理なら食べられますが、食べ慣れない香辛料やレモンなどの組み合わせが苦手なようです。お子様は食べにくい味かもしれません。野菜の苦味とレモンの酸味と香辛料とオリーブ油の組み合わせは、大人の味かもしれません。

■■材料分量・・・1人分■■
にんじん・・・・10g    大根・・・・・・30g    
セロリ ・・・・・10g    れんこん・・・ 5g
しめじ ・・・・・10g   いんげん・・・・・10g  
 a〔水8ml、白ワイン8ml、オリーブ油4ml、ロリエ・タイム・コリアンダー少量、
   塩(野菜の0.8%)0.5g〕   
レモン汁(野菜の3%)・・・2ml
干しぶどう・・・5g

■■作り方■■
(1)材料を準備する。
にんじん・だいこん・セロリは5cmの長さ、ひょうし木切り
いんげんは3分ゆでて2つに切る。(千葉注:長いインゲンなら3つに切ってください。5cmを目安になさってください。)
しめじは根を切り落とし小房に分ける。
れんこんは薄い輪切り
干しぶどうは水でさっと洗う。
(2)なべにaといんげん以外の野菜入れて火にかける。はしでかきまぜながら2分くらい火を通す。
(3)火を止めるときに干しぶどうを加える。
(4)レモン汁を加え、盛るときにいんげんを混ぜる。あさつきのこぐち切りをふってもよい。

お詫び・・・かぶとほたて貝の和風サラダは今回省略させて頂きます。

引用文献
文部省検定済教科書001「家庭総合」・009「家庭基礎」 東京書籍
文部省検定済教科書003「家庭総合」実教出版
文部省検定済教科書004「家庭総合21」実教出版   
文部省検定済教科書005「家庭総合」開隆堂 
文部省検定済教科書017「家庭基礎」一橋出版 
2005年12月4日朝日新聞朝刊
 
参考文献
「オールフォト食材図鑑」荒川信彦・唯是康彦監修 社団法人全国調理師養成施設協会 (1996)
「調理と理論」山崎清子・島田キミエ共著 同文書院(1975)
「国民栄養の現状 平成13年度厚生労働省国民栄養調査結果」健康・栄養情報研究会編
         第一出版(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ1 人と健康」 大塚譲・河原和夫・倉田忠男・冨永典子編
         東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ3 人体の構造と機能 Ⅱ.生化学」
        近藤和雄・脊山洋右・藤原葉子・森田寛編 東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ5 食品学」 久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ9 基礎栄養学」倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・藤原葉子編 
        東京化学同人(2005)
スタンダード栄養・食物シリーズ10 応用栄養学」近藤和雄・鈴木恵美子・脊山洋右・藤原葉子編 
        東京化学同人(2005)
「おいしさの科学事典」山野善正総編集 朝倉書店(2003)
「サイエンティフィックアドベンチャー3 グルメの話 おいしさの科学」 伏木亨著 恒星出版 (2003)
「人間は脳で食べている」伏木亨著 ちくま新書(2005)
「2005年版食料白書食生活の現状と食育の推進」食の選択能力向上への取り組み
     編集・発行 食料・農業政策研究センター(2005)
「お茶の水女子大学LWWC再教育講座 化学物質総合管理法学3(医薬品と食品の安全)
   2005年4月25日講義資料」 宇津忍(厚生労働省医薬品食品安全部基準審査課課長補佐)