オトナの食育 基礎編 第4回 
2008/1/10号掲載    千葉悦子(高28)


 野菜を食べるために No.4「あくとの付き合い方」

 

 


 新年おめでとうございます。
 初詣をされましたか?私もこのメルマガが出る頃までには済ませたいです。が、昨年元日の三島大社や、7日の富岡八幡宮(東京の下町では有名で信仰されています)では、本殿の前に行くことが難しく、遠くから拝むだけでした。それからというもの、三が日とか七草とかに拘らず、お願い事があるときに拝むことにしました。近くに行ったついでに年末にも富岡八幡宮にお参りしました。7日まで、本殿前に行くことが出来そうにないからです。
 発想を変えるとか、今まで信じて疑わなかったことについて再考することも大事と「食」についても思います。

あくは全部取り除くのが良いとは限らない
 基礎編第2回、青菜のゆで方のところで、あくを除くためにゆでる、といったことを書きました。が、あくの中には機能性成分もあるので、健康上、全部取り除くのが良いとは限りません。
 ところで、「あくとは何か?」ですが、「調理学」p.142には次のような説明があります。
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 野菜に含まれるえぐ味、苦味、渋味などの不味成分をあくという。少量のあくは野菜の個性となる風味として楽しむことができるが、多量に存在すると不快になるので除去しなくてはならない。不味成分はアルカロイド、タンニン、有機酸、無機塩類などである。不味成分の多くは水溶性なので、下ゆでして除去できる。
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 アルカロイドのような毒は除去しなくてはいけません。が、上記のように、毒でないあくは、少量なら「それぞれの野菜の風味」としてなくてはならないものです。しかも、最近の野菜は消費者の好みに合わせて、あくの少ない品種が主流なので、昔の料理本のように、しっかりあくを除く必要がない場合もあります。
 たとえば「ごぼうやれんこんは下ゆでしてから煮る」と書いてある本が
けっこうありますが、切ったら水につけておき、下ゆでなしで煮たり、炒め煮にしたりしても、支障がない味であることが多いです。
 お正月や冬によく料理する、ごぼうやれんこんは切ったまま放置すると
褐色に変化します。こういった野菜の細胞の中には、ポリフェノール類と
これを酸化して褐色物質をつくる酵素が含まれ、切ることによりポリフェノールが空気中の酸素と接触し、酵素の作用で酸化されて褐変します。
 ポリフェノール類にはいろいろな種類があり、その一つであるクロロゲン酸が、ごぼう、さつまいも、れんこんなどに入っています。
 ポリフェノール類はあくの一種ですが、機能性成分の一つで、抗酸化作用があると言われます。さらにクロロゲン酸は非常に強い抗酸化作用があるそうです。せっかくの良い作用を持つ成分を、下ゆでにより大幅に減少させるのは、もったいないことです。たしかに、ごぼうやれんこんが真っ黒いのも、サツマイモが暗い緑色なのもいただけませんが、それについては、加熱前に水につけておく程度で十分と思います。なお、黄色い美しさを大切にしたいきんとん用サツマイモは、変色しやすい周囲の部分を厚くむくことも必要です。
 お店で正月用に売っているレンコン料理は、「漂白したのではないか?」と思うほど非常に白いことが多いです。「正月用」「万人向けの売り物」なので、見た目を気にするのは理解できます。ですが、せっかく手作りするなら、
ほど良い味や健康を考えて、白いことに拘り過ぎないようにと私は思います。
 なお、クロロゲン酸はコーヒーにも含まれますので、コーヒー好きの夫は
「ほら、コーヒーは体に良い!」などと勝ち誇ったように笑っていましたが、
だからといって、コーヒーのがぶ飲みが体に良いとは思えません。
というのは、カフェインの取り過ぎは良いはずがありませんし、少しは緑茶も飲むと、ビタミンCが取れるうえに他の機能性成分も摂取できて良いでしょう。さらに、飲物として牛乳を組み合わせると、吸収の良いカルシウムを安価に摂取できます。また、もしもコーヒーに砂糖やフレッシュと称する油の多いものまで入れる習慣があれば、肥満や脂肪の過剰摂取の問題に直結しそうです。その上、コーヒーは日本ではとれませんから、フードマイレージの考え方からすると好ましくないです。
 高橋久仁子先生が「フードファディズム」でお書きになっているように、
「○○が体に良い」と言って、そればかり食べたり飲んだりするのは問題
です。あくまで、全体を考えて、バランスよく食事することが大切です。
 新聞の食に関する情報の書き方は、以前より量を考えた冷静なものに変化してきているようですが、まだまだ、マスコミや宣伝には「フードファディズム」的な、偏ったものも見受けられます。どうぞ今年は、より冷静な判断をされ、より良い食生活をお送りください。私もその一助となるような活動をしてゆきたいと年頭に改めて思います。
 
引用文献等
スタンダード栄養・食物シリーズ6「調理学」 畑江敬子・香西みどり編 
     東京化学同人(2003)
おもな参考文献等
スタンダード栄養・食物シリーズ5「食品学」―食品成分と機能性
  久保田紀久枝・森光康次郎編  東京化学同人(2003)
「フードファディズム」メディアに惑わされない食生活 
  高橋久仁子 中央法規出版 (2007)
「野菜のビタミンとミネラル」
    産地・栽培法・成分からみた野菜の今とこれから
  辻村卓編著  女子栄養大学出版部(2003)
「メディア・バイアス」あやしい健康情報とニセ科学 
  松永和紀 光文社新書298(2007)
『全国高等学校家庭クラブ連盟 機関誌 2007年4・5月号』
 FHJゼミナール たべものと健康(1)―その新しいサイエンス
  阿部啓子
日本経済新聞2007年12月29日朝刊
  「医食同源 おせち料理とレンコン効果」