オトナの食育 基礎編 第2回 
2007/11/10号掲載    千葉悦子(高28)


野菜を食べるために No.2「ゆでる その2 青菜のゆで方」
 

 


 冬の野菜がおいしい季節になります。
 「オールフォト食材図鑑」によると、ほうれんそうの旬は12月から2月、小松菜は12月から3月、かぶや春菊は11月から3月です。
 同書p.100、ほうれんそうの記述によると「現在は東洋種と西洋種のF1品種(一代雑種)が主に栽培されている。F1の開発で四季を通じての栽培ができるようになったが、やはり秋に播種して冬に収穫するものが多く、その方が味もよい。」ということです。
東京書籍の中学家庭科教科書p.36に「ほうれんそうの収穫時期とビタミンC含有量」というグラフが載っていて、ほうれんそう100g中のビタミンCは、夏どり20mg、冬どり60mgです。旬の野菜は美味で栄養も豊富であることを再認識しましょう。 
食事摂取基準では、12歳以上の男女のビタミンC推奨量は、100 mgですから、冬のほうれんそう50g(お浸し小鉢一つ分)で、推奨量の1/3近くのビタミンCを摂取することができることになります。ただし加熱による損失を考えていない話です。ビタミンCというと、レモンやみかんを思い浮かべるでしょうが、青菜を含む緑黄色野菜にもよく含まれます。
このほか、色の濃い緑黄色野菜は、カロテン(体の中でビタミンAに変わり、粘膜を丈夫にし、風邪を予防するといわれる)やカルシウムなども豊富なので、その調理方法を覚えて身につけたいものです。

野菜のゆで方のおさらい
  一般に、土の中で出来る作物(じゃがいもなどの根菜類は水から
 地上に出来る作物(ほうれんそう・小松菜などの青菜は熱湯でゆでます。

「あく」の多い青菜はゆでる
 ほうれんそうは「ポパイ」で有名であるように、鉄や各種ビタミンを多く含むなど栄養的に優れていますが、「まずい」あくの成分(シュウ酸や硝酸など)も多いです。そういうわけで、いきなり煮ず、ゆでます。「煮る」は煮汁を捨てませんが、「ゆでる」は加熱後ゆで水を捨てます。「ゆでこぼす」ことによって不味成分を除去し、食べやすくます。
サラダほうれんそうは品種が違う
 15年位前でしょうか、デパ地下で「ほうれんそうのサラダ」を見ましたとき仰天しました。どうしてあくが強いはずのほうれんそうを、生のまま使うのか?と。スタンダード栄養・食物シリーズ5「食品学」p.186に「最近、シュウ酸の少ない生食用のサラダホウレンソウも栽培されている。」とあります。
 その食品に合う調理法を選んで、おいしい料理を作りましょう。

■青菜のゆで方
 大量の熱湯で、ふたをせずにさっとゆで、冷水に放って急冷します。

1.大量の熱湯にする理由
   青菜の緑色を美しく保つには、加熱し過ぎてはいけません。緑色の色素は
  クロロフィルで、加熱時間が長いとフェオフィチンという褐色の物質に変化する
  からです。水からゆでると、加熱時間が長くなり、色が悪くなります。また、熱湯
  の量が少ないと、青菜を入れたとき温度が低くなり、加熱時間が長くなります。
2.大量の熱湯とはどのくらいか?
   「調理と理論」p.412によると「材料の5倍くらい」とあります。省エネも考え、
  大量とはいえ、ほどほどにしておくことも必要でしょう。
3.なべにふたをしない理由
   青菜を含む野菜には酢酸やシュウ酸などの有機酸が含まれています。
  加熱により組織が破壊され、酸が熱湯に出てきます。酸性条件にさらすと、
  クロロフィルがフェオフィチンに変わるので、色が悪くなります。が、なべのふた
  をしないと有機酸が揮発するので、酸性が強くならず、緑色が悪くなりません。
  なお、大量の熱湯を使うのは、この有機酸の濃度を下げるという意味もあります。
4.急冷する理由
   加熱時間が長くなると、色が悪くなったり、やわらかくなり過ぎたりするからです。
5.ゆで水に塩を加えるか?
   塩分を控えなければいけない人には、塩を入れずにゆでることをお薦めします。
  料理本にはよく「塩をひとつまみ入れると色よく仕上がる」などと書いてあります。
  が、「調理とおいしさの科学」p.138に次の記述があります。
     実験でホウレンソウをゆでる際にゆで水の1%程度の食塩(1.5リットルの水に
    大さじ一杯程度)を加えても、食塩を加えないものと比べて緑色には
    差がない。

  「おいしくできるきちんとわかる 基本の家庭料理」和食篇p.124の記述を私も同感だ
  と思います。
    科学的には2%の濃度以下では効果はなく、おひたしをいただくには、
   それ以上の塩分をつける必要もないので、青菜の場合、塩を入れることが
   色よくゆでるための必要条件とは考えなくてもよいと思います。

   なお、筆者が10月末に、ホウレンソウを塩なし・1%程度の食塩水・2%程度の
  食塩水でそれぞれゆでて比較したところ、1%では色に違いはなく、2%でもほとんど
  差が出ませんでした。水菜や小松菜でも、色に違いが出ませんでした。
  しかし、2%の方はしっかり味がついていて、それからさらに胡麻和えにするとか、
  お浸しにするのは無理と思いました。
   ただし、スタンダード栄養・食物シリーズ6「調理学」p.142によると、
  「1%の食塩を加えてゆでると、水のみでゆでたものよりもビタミンC残存率が
   高くなる」
 
 ということですから、そういう意味で食塩を加えるのは意味があると考えられます。
  また、食塩をゆで水に加えると、1%であっても、青菜がよりやわらかくなるので、
  加熱時間を短めにしないと、ゆで過ぎになります。ご注意ください。

ゆでた青菜の食べ方■
 お浸しにする場合、 <ホウレンソウ200gに対して、割りじょう油として、しょう油大さじ1、出し(昆布のつけ汁でも)大さじ2>という「おいしくできるきちんとわかる基本の家庭料理」和食篇p.125の方法もお薦めの一つです。学生の調理実習で、出しは混合出し(昆布とかつお節でとる)をとらせ、この割りじょうゆをかけましたところ、「おいしい」と驚かれました。若い人にも食べやすい味のようでした。 
 塩分の低減という意味でも、一手間かけて割りじょうゆを試してみてはいかがでしょう?また、ゆでても少し残る苦味を、幼い子どもは苦手と感じることでしょうから、出しの旨味で食べやすくすると、野菜嫌いを解消していけそうです。
 「野菜といえばドレッシングやマヨネーズ」という食べ方ばかりですと、油のとり過ぎになります。離乳食・幼児食の頃から、ご飯と、出しとしょうゆの薄味がついた野菜の味に慣れさせていきたいものです。私は、これは日本で守りぬかなければならない食文化の一つと思います。

食生活全体・生活全体から見直しを■
 「2007年度版食育白書」をざっとネットで読みした。食を中心に、育児をますます家庭、特に女性に押し付け、生活全体・社会全体の問題にはふれていないことが、私の心を逆なでします。仕事と家庭の両立に取り組まず、
男性の理解や具体的な協力なくして、日々の生活を丁寧に送れるとは思えません。離乳食がパン粥とパック詰め・瓶詰の「ビーフストロガノフ」「チキンクリームシチュー」といった、カタカナことばの料理ばかりではいけません。それが、個人および日本にとって、どんなに大切かを深く理解し、実践していくことが重要です。そして、その実践を支えるのは、長時間労働の見直しといった社会全体の問題を解決することが基盤となりましょう。
そうでなければ、税金を使って立派な「食育白書」を作り続けても、家庭に育児手帳を配布しても、「分かっちゃいるけどやめられない。(変えられない)」から抜け出せないでしょう。
 今年8月20日の日経社説に次の文があります。

 「終電車で帰宅するのを良しとする企業風土は、生活用品を扱う会社に
ふさわしくない」。今年一月から午後七時以降の本社での残業を原則禁止した良品計画の松井忠三社長の弁である。


 松井忠三様は、韮高20回生でいらっしゃいます。数年前、関東支部同窓会でお目にかかることができました。この記事を読みました時、同窓生としては誇らしく思いました。が、こういう社説が載ること自体、生活を後回しにしている社会を写しているので、悲しく思いました。沈んでばかりでは、現実は良くならないので、今回、書かせていただきました。
 狭い意味の「食育」でなく、生活全体からの視点を持ち、社会のあり方も考える「家庭科」としての「食」の学びを大事にしていきたいです。

◇引用文献等◇
「オールフォト食材図鑑」全国調理師養成施設協会編 調理栄養教育公社 (平成8年)
新版 調理と理論」山崎清子・島田キミエ・渋川祥子・下村道子共著  同文書院(2003)
「調理とおいしさの科学」島田淳子・今井悦子編 財団法人放送大学教育振興会(1998)
おいしくできるきちんとわかる 基本の家庭料理」和食篇 主婦の友社編集部編(2007)
スタンダード栄養・食物シリーズ5「食品学」―食品成分と機能性― 久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ6「調理学」畑江敬子・香西みどり編 東京化学同人(2003)
日本経済新聞2007年8月20日朝刊 社説 時間当たりの効率高め生活との調和を 成長促す働き方

◇おもな参考文献等◇
「小学校5・6年 わたしたちの家庭科」 櫻井純子ら 開隆堂(2007)
「新しい家庭 5・6」渋川祥子ら 東京書籍(2007)
「新編 新しい技術・家庭 家庭分野」佐藤文子・渡辺彩子ほか52名著
東京書籍(平成17年検定済)
スタンダード栄養・食物シリーズ9「基礎栄養学第2版」
     倉田忠男・鈴木恵美子・脊山洋右・野口忠・藤原葉子編 東京化学同人(2007)
「五訂増補 食品成分表2006」香川芳子監修 女子栄養大学出版部 (2005)
「いま「食べること」を問う」本能と文化の視点から サントリー次世代研究所
 企画・編集 伏木亨・山極寿一編著 人間選書265 農文協(2006)
ベターホームの野菜料理」あいうえおで引ける野菜別のおかず300品 改訂1版 
         財団法人ベタ−ホーム協会編 ベタ−ホーム出版局(2007)
「料理の基礎の基礎 コツのコツ」小林カツ代 だいわ文庫 24−A (2006)
クッキング・エチュード1「和風の家庭料理」鈴木登紀子 講談社(1983)
朝日新聞2007年7月9日夕刊 体と心の通信簿 減らした味に舌を慣らす  塩分の取りすぎ