オトナの食育 基礎編 第1回 
2007/10/10号掲載    千葉悦子(高28)


野菜を食べるために No.1「ゆでる」
 

 


 良い季節となりました。
 新米がとれ、季節の果物が次々出回ります。「皮をむくのが面倒」「果物を食べる時間がないほど忙しい」「幼児に食べさせると汚すから嫌」といった状況や気分から、何とか抜け出したいものです。
 さて優先順位を考え、「野菜を十分食べるための知識・知恵」をお伝えすることから「基礎編」を始めます。というのは、「健康日本21中間評価報告書」を見ますと、野菜の摂取量はベースラインに比べて減少していますし、目標値よりかなり低いです。また、お茶の水女子大学附属学校主催の研究会で、東北や関西方面も含め、いろいろな地方からいらした小・中・高・大の先生方からお話を伺う機会があり、「好き嫌いが多く、給食で野菜を食べなくて困る」「中高校生の調理実習で野菜を残す。」そうです。また、私自身が東京で中高校生の調理実習を担当してきて、その傾向があります。さらに、小学校の教員を目指す大学生の中にも、野菜を残す人が少なからずいますし、自分の好き嫌いは棚上げして、「セロリは野菜スープや野菜炒めに入れない方が良いと思います。」などと真剣に(?)書く人もいます。
 野菜にありがちな「苦味」は、「食べ慣れる」という一種の学習をしなくては、食べられるようにならないでしょう。動物の本能として、苦味は毒物の特徴として避けます。子どもが嫌うから食卓に出さない、出ないから食べ慣れる機会がなく、食べられるようにならない、という悪循環を断ち切りたいものです。あまり好きではないけれど、食べやすくする工夫もしながら、また、栽培や料理を手伝わせ、関心を持たせつつ、野菜の苦味や風味に慣れさせていく、という流れにしたいものです。
 小学校の家庭科の教科書には野菜や果物について「おもにからだの調子を整える食品」など書いてあります。私が子どもの頃から同じ表現だったように記憶します。短く分かりやすいことばで正確に表現しているとは思いますが、中高年と違い、小学生のうちは体の調子の良い場合が多いので、その重要性がぴんとこないでしょう。教員や周囲の年長者による、小学生に「野菜も食べる必要がある」と理解できるような説明が必要です。
 野菜や果物は5大栄養素であるビタミン・無機質、食物繊維が豊富です。
さらに、植物が自分の身を守るために作り出す成分として、抗酸化物質があり、それが人間の老化や病気を抑えます。抗酸化物質の主なものは、ビタミンC やE、カロテノイド(リコピン、ルテインも含まれる)、ポリフェノール(アントシアニン、カテキンも含まれる)、イソフラボンなどです。カロテノイド、ポリフェノール、イソフラボンや食物繊維は、5大栄養素には含まれないですが、近年注目されている機能性成分です。
 機能性成分やビタミン・無機質を、従来からの食品から摂取する場合は過剰摂取の心配はまずありませんが、サプリメントやビタミン剤等でいいかげんにとろうとすると問題が生じることがあるので、気をつけましょう。
 果物を極端にたくさん食べますと、糖分の摂り過ぎになる場合もありますが、野菜の取り過ぎはありえません。安心して健康日本21の目標値である1日350グラムの摂取を目指し、より具体的には、食事バランスガイドの副菜5〜6皿程度をとれるように、野菜を食べるための知識や知恵を得て、実践しましょう。

野菜のゆで方
 一般に、土の中で出来る作物(じゃがいもなどの根菜類は水から
地上に出来る作物(ほうれんそう・小松菜などの青菜は熱湯でゆでます。
 例外もあります。かぼちゃは地上にできますが、水以外の成分では、でんぷんが多いのでどちらかというと水からでしょう。もっとも、かぼちゃは煮たり炒めたりすることが多く、ゆでることは少ないです。せいぜい奥薗壽子氏が下ごしらえとして水から蒸しゆでした記述や、サラダやポタージュの下ごしらえとしての記述くらいしか見当たりません。
 例外はありますが、この原則は覚えておきたいものです。一つ一つの野菜の料理方法を調べて記憶するには、時間も労力もかかります。とりあえず料理しなくてはならないとき、原則を知っておくと推測ができ、応用がききます。

野菜を加熱する意味
 「野菜なんて生で食べれば、ビタミンが壊れないし、省エネで地球に優しいではないか」というご意見もあるでしょう。生野菜のサラダ、きゅうりの酢の物、漬け物とかもおいしいです。が、果物・いも類は別として、1日350グラムの野菜をとるのは、とてもたいへんです。胃の丈夫な人でないと、苦しいでしょう。加熱の意味は消化を良くするということもあります。また、加熱により有害微生物が死滅し、有害化学物質も壊れる場合があり、衛生上も安心です。また、加熱により野菜は大幅にかさが減り、重量として多くを容易に食べられます。しかも、ビタミンをはじめとする栄養素は多少減少しても、ゼロになるわけではないですし、熱に強いビタミンもあります。
 さらに、料理の幅が広がり、生では食べにくい野菜も食べられ、同じ野菜も違った感じとなり、飽きずに楽しくおいしく感じることでしょう。
 これから何回かにわたり野菜をたくさんとることについてご説明いたしますので、ご期待ください。

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2007年10月6日28回生の同期会に参加して
 クラス担任でした先生方と100名程度の同期生が11年ぶりに集いました。
何人もの方々に「<オトナの食育>読んでるよ。」と声を掛けて頂きました。
お礼申し上げます。
 「どなたも読んでいないのでは?」と思っていたのですが、違いました。
2年間続けて参りましたかいがありました。
それだけに責任も感じ、より短く、分かりやすいものを目指していきたいと存じます。
 11年前、太目の男性が多く、食を含む家庭科関係の再就職への意を強くした私としては、再会についてドキドキでした。皆さんどうなられたかと。
 すっきりした体型の男性に「運動は?」と伺うと「ビリー(ズ ブート キャンプ)を30分やっている。」と話される方もいらして、「新聞に載っているだけでなく、本当に流行っているらしい」と思いました。
 しかし、残念なことに年長の恩師より太めの男性がかなりいらして、中には
「血糖値が高くてね、○○大学病院に月1回程度通っている。今日もジョギングしたのだけど。」などと話しながら、アルコール飲料を次々飲む方も・・・。
同期会=飲み会、と言えばそれまでですが、それぞれに合う健康についての具体的な取り組みを希望します。

■おもな参考文献等■
健康日本21中間評価報告書 平成19年4月10日 
         厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会
食事バランスガイド・・・食生活指針(平成12年3月)を具体的にする物として、
          平成17年6月に農林水産省と厚生労働省により決定された。
「小学校5・6年 わたしたちの家庭科」 櫻井純子ら 開隆堂 (2007)
「新しい家庭 5・6」渋川祥子ら 東京書籍(2007)
スタンダード栄養・食物シリーズ6「調理学」  畑江敬子・香西みどり編 東京化学同人 (2003)
スタンダード栄養・食物シリーズ5「食品学」―食品成分と機能性― 
        久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人 (2003)
新版 調理と理論」   山崎清子・島田キミエ・渋川祥子・下村道子共著 同文書院(2003)
「調理とおいしさの科学」   島田淳子・今井悦子編 財団法人放送大学教育振興会(1998)
「栄養キーワード事典」 五十嵐脩 池田書店(2005)
「食と味覚の科学」―
21世紀の食と健康を考える― ネスレ科学振興会 
        財団法人 日本学会事務センター大阪事業所 (2004)
「メディア・バイアス」
あやしい健康情報とニセ科学   松永和紀 光文社新書298(2007)
「人間は脳で食べている」伏木亨 ちくま新書570(2005)
「牛丼 焼鳥 アガリスク」中村靖彦 文春新書554(2007)
「変わる家族 変わる食卓」
真実に破壊されるマーケティング常識  岩村暢子  勁草書房 (2003)
「五訂増補 食品成分表2006」香川芳子監修 女子栄養大学出版部 (2005)
「ベターホームの野菜料理」あいうえおで引ける野菜別のおかず300品
        財団法人ベタ−ホーム協会編 ベタ−ホーム出版局(2007)改訂1版
「料理の基礎の基礎 コツのコツ」小林カツ代 だいわ文庫 24−A (2006)
クッキング・エチュード1「和風の家庭料理」 鈴木登紀子 講談社(1983)
ナマクラ流ズボラ派家庭料理研究家 「奥薗壽子のラクうま料理&おやつ大好き!」
        藤岡真澄編 主婦の友社(2006)
『栄養と料理』2007年8月号 女子栄養大学出版部
朝日新聞2007年9月2日朝刊 元気のひけつ 日焼け 緑黄色野菜、紫外線に効果
日本経済新聞2007年9月18日夕刊 病を知る 現代人の疲労@ 
        疲れの正体 脳の神経回路が主役 乳酸・セロトニン過剰説には否定的