オトナの食育 資料編 第9回 2007/8/10号掲載    千葉悦子(高28)


夏休み特集 お子さんがいる方へ  ―小学生から大学生まで
    「いのちの食べかた」などの紹介・
  子どもとの関わりについてのヒント―料理をしながら―



 夏休みですね!とはいえ母の立場ですと朝から「今日のお昼は何?」と聞かれて、辛いものがあります。給食のない子どものために、毎日昼やおやつの用意をするのは、手間がかかります。しかも、どっさり出ている宿題の大半がまだ仕上がっていないとなると、暑さを余計に感じます。

 それでも、夏休みに何か良い本を読んでほしいと思うのが親心。今回小学生から大人までにお薦めする本は、森達也著「いのちの食べかた」です。前回ご紹介しました 「コンビニ弁当16万キロの旅」同様ルビ付き、小学生にも読めそうです。ただ今回の本は、肉をきっかけにしてどんどん奥に入り、差別の問題まで丁寧かつ分かりやすく述べています。小学校低学年では難し過ぎるでしょう。内容は小学校高学年から中高校生向きと思います。
 私が中1の生徒と家庭科の授業をしていましたとき、ある男子生徒が
「食べるということは、いのちを頂くこと」と言い、クラス全員が驚きと尊敬の念をもってその生徒を見ながら、「ほーっ」と声を出しました。見られた生徒は恥ずかしそうでしたが、正論が認められて、うれしそうでもありました。どうやら、日常ではすっかり忘れていた「いのちを頂く」ということを思い出させてくれたので、他の生徒がそういう反応を示したと思われます。
 親や教員がそれを言ったのでは、この年齢の子どもたちは、右から左に流してしまいそうです。むしろ第三者からの方が素直に聞くでしょう。
こういった本を読んだ生徒がそれを発すると、非常に効果的に他の生徒に響きます。ですから、小中高の図書室、地域の図書館にぜひ置いてほしい1冊と思います。
 本書は出版から3年近くになり、書名をネットで検索するとおびただしい件数の情報が得られますので、詳細は省きます。
 なお、この本を私に紹介してくださったのは、私の所属する私的勉強会「家庭科の授業を創る会」の一員です。その方の尽力で、品川駅から徒歩で行ける東京都中央卸売市場食肉市場を昨年春見学しました。参加人数が多いということで、屠殺の部分はビデオで見ましたが、牛1頭ずつの活気のある「せり」やその後の加工などを直接見ることができました。日常生活では「牛肉」と一くくりにしがちですが、産地・等級・価格など、様々であることを目の当たりにしました。
 また、「東京都中央卸売市場食肉市場」とネットで検索すると、いろいろな情報も手に入ります。夏休みの理科に限定されない自由研究にも役立つかもしれません。

 次も、そういう意味でも役立ちそうなサイトの紹介です。
ほねぶとネット・子どもの食と育を考える意見交流サイト
http://homepage2.nifty.com/shokuiku
食育コーディネーターの大村直己さん(食物学科の私の3級先輩)の主宰するサイトです。無料の割に、充実していると思います。『オトナの食育』の参考文献等でご紹介しました伏木亨京大教授や高橋久仁子群馬大教授といった有名人から、若手の先生方まで、多くの文章を読めます。
 また、「家庭科の授業を創る会」での研究内容の概要を2005年11月付けで掲載いたしました。

 ところで、大学生も帰省する頃でしょう。一人暮らしや、料理に慣れない方のための資料のご紹介です。
「ミニマム エッシェンシャル クッキングカード」
地域教育社から600円で出ています。開発・調理は、私が長年敬愛する田中京子お茶大附属高校教諭です。表紙に「かんたん おいしい ヘルシー」と書いてあります。また表紙に次のようにあります。
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@ 調理時間平均15分で簡単 
A 材料・手順・調味が単純で、最低限の調理器具で作れます。 
B 調理に親しみながら、バランスのよい食生活が身につきます。 
C どの料理も野菜たっぷりで、油控えめです。
D 食事バランスガイドで、何をどれだけ食べたらよいか
   ひと目で分かります。

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A5カードの形ですので、見ながら作る場合、本より便利です。ポーチドエッグの作り方で、感心しましたことは
水ははしでかき混ぜて渦巻きをつくり、その中心に卵を割り入れて加熱する。」です。これを知るまで、卵白が散ってしまい、まとまらないと思っていましたが、この方法ですと上手くいきます。いいかげんなレシピなら、いくらでもネットで見られますし、他にも良い本やカードがあるでしょうが、これは使い勝手・価格共にお薦めと存じます。

子どもとの関わりについてのヒント―料理をしながら―
 資料編ということで、資料を出来るだけ挙げますが、あまり難しく考えず、まず、子どもと一緒に料理することが大事でしょう。とはいえ、小学校までに下地を作っておかないと、思春期に入って一から始めるのは困難です。
 末子は今中学3年生の男子、母の言うことなど片端から反発します。
小学生の頃は、夏休みの終わりにある東急ハンズの売り出しで、子どもの手に合う小型のフライパンを買い求めたところ、「僕のフライパン」とニッコリして、ちょっとしたフライパン料理を楽しんだものです。が、中学生になってからは教え込もうなどと思っても、無理でした。教員としての経験からも、特に男子は素直な小学生のうちと思います。つまり、発達段階における適した時期を逃さないことが大事です。
 多くの家庭科の先生方が経験的に得ていることですが、包丁の扱いに慣れる一歩は、りんごの皮むきです。私は、なしの方が少しざらざらしていて、すべりにくく、より扱いやすいと思います。この時期から子どもがたいがい好きな、なし・りんごが旬となりますので、晩夏から秋・初冬は、子どもが包丁の練習を楽しく行う絶好のチャンスです。

 ところで「母と娘」というのも、永遠のテーマの一つである「父と息子」と同様、難しい場合のある関係です。長女が高校生の頃、二人で料理しているときに「お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」と聞かれ、「とうとう来たな!」と思いました。そのとき包丁で手を切らなくて良かったです。
 こういう聞き難く、答え難く、かつ、遅くなり過ぎない時期に話しておく方が望ましいことは、いくつかあるでしょう。が、面と向かって話すことなど、日本人の感覚では出来そうにないと思いませんか?そういうとき、料理や手芸等、何か作業をしながらだと比較的話しやすいです。ところが効率を求め、年々テンポの早くなる社会において、料理・裁縫・手芸をはじめ、手作業は家庭や学校から消えつつあることが悲しいです。
 大学生を教えていて、調理実習中、教育実習中の辛かった思いや不満等、私が聞いたわけでもないのに自分から話してくる学生がいました。学生と教員の短く浅い付き合いを考えると、講義形式では、とうていありえないことです。
 夏休みを有効利用して、親子・家族一緒に手を使う作業をしてみませんか?
 「親子の会話を」「教員は生徒理解を」と学校や公の機関等が発信しますが、その方法やヒントはなかなか発信されません。今回はそれを書けたのではないかと思います。

《引用文献》
「いのちの食べかた」森達也 理論社(2004)
「ミニマム エッシェンシャル クッキングカード」
  監修:畑江敬子(1昨年までお茶大教授) 
  開発・調理:田中京子(お茶大附属高教諭)
  協力:流田直(昨年までお茶大附属小副校長)・
      栗原恵美子(お茶大附属中教諭)
  地域教育社

《参考文献等》
ほねぶとネット・子どもの食と育を考える意見交流サイト
http://homepage2.nifty.com/shokuiku