オトナの食育 資料編 第5回 2007/4/10号掲載    千葉悦子(高28)

お弁当のすすめ その2
宣伝に洗脳されず、手作りの良さを大切に
おいしいご飯を用意するには?


宣伝に洗脳されず、手作りの良さを大切に

 新年度が始まりました。
 4月からお弁当を作り始めた方は寝不足かもしれず、睡眠時間の確保の方が、食事のことより先決の場合もあるでしょう。そういう生活全体の時間の使い方のバランスも大事です。
 前回、バランスの良い食生活の具体的な方法の一つが、「昼食もある程度栄養バランスを考える」でしょう、と書きました。が、「ある程度」という部分をお忘れなく。完璧に近いものを目指すと、毎日のお弁当作りが苦痛になったり、寝不足 で風邪を引いたりしますから。
 私としては、婦人雑誌や育児雑誌の写真にあるような、見た目完璧なお弁当をそのまま真似るのは、やめておくのが賢明と思います。近頃「キャラ弁」といって、キャラクターや風景を弁当の上に表現し、それをネット上で公開するのが流行とか。そういう才能があり、楽しいと思え、時間を使える人は、それも良いでしょう。しかし、私のように手早くなく(たいがいの生徒よりは器用ですが)、絵心もなく、3人の子どもの心配をし、末子がまだ義務教育中で、その用事もけっこうあり、仕事もしたいとなると、「完璧は捨て、健康を保持・増進する栄養面はある程度考える」となります。
 高校生でした頃の二女は、不満もありました。周囲の生徒は、市販の冷凍のおかずを温めて持ってきて、見た目豪華でおいしそうというのです。少しは譲歩しましたが、本人が作るのではないので、私流です。
 「崩食と放食」のp.71〜72に群馬大学・高橋久仁子教授が次のように書いていらっしゃいます。
 子どものお弁当が冷凍食品の品評会になっているのは、冷凍食品業界が、そうしなくてはいけないという強迫観念を植えつけたからでしょう(後略)
 そう、この世は宣伝に席巻されています。それぞれの企業が自社製品を買ってもらえるよう、巧みな方法で宣伝します。消費者に「宣伝」と気付かれないような方法も用います。それは、食品も例外ではありません。
 繰り返し、見た目完璧・豪華な弁当の写真に触れるうちに、私たちはずっと以前なら「豪華」と感じていたはずの物を、「普通」と感じるようになっているのです。
 高橋教授は同書p.75の「ハレの日食卓症候群にさようなら―日々の食卓には素材型簡便料理を」の項に、弁当限定ではありませんが次の記述があります。
 日常食は、ごく簡素なものでいいのです。ごはんとおみそ汁、おかずが二品もあれば十分。私はそれを「素材型簡便料理」と呼んでいます。(中略)
毎日、毎食で考える必要はありません。一週間くらいのスパンで調整すればいい。
 「粗食のすすめ お弁当レシピ」p.8〜9に幕内秀夫氏が「手作りお弁当は3種のおかずで十分」の項に、油の摂り過ぎや、国籍もわからないほどたくさんの種類の食品を食べることに疑問を投げかけ、次のようにまとめています。
 私はひとつのめやすとして3種類のおかず、
●野菜・海藻・いものおかず
●豆・豆製品・種実のおかず
●動物性のおかず
を提案しています。

 ただし、この著者は未精米のご飯を提唱していますから、それは無理な私の家族の場合、おかずの工夫がより必要となりそうです。とはいえ、油を使い過ぎない、いわばメタボリック症候群予防・対策用、日常の弁当のヒントとしては、落ち着いた感じの良い本と感じます。
 なお、おかずの組み合わせについては、次号に詳しく書く予定です。


おいしい弁当用ご飯を用意するには?
 おいしいご飯であれば、おにぎりだけでも、おかずの品数が少なくても、おいしいお弁当になりますよね。また、主食がご飯なら和食になりやすく、自然とバランスが良くなりそうです。

1.素材について考えましょう
(1)水

 三島の水で母が文化鍋で炊いたご飯はたしかにおいしいです。水も炊き方も良いと思われます。しかも空気も良いから気分も良く、おいしく感じられるのでしょう。そう考えると、東京の高層住宅に住む者にとって、水は浄水器のものを使うのも一法でしょう。
 水温についても考えます。2時間以内しか浸水しない場合は、水温が高めであることを気にする必要がありません。が、これから夏場にかけて、気温が上がると、前の晩から浸水するうちに、水温も上がります。しかも、三島の水なら夏でもひんやりしていますが、東京ではそうはいきません。しかも機密性の高い住まいですと、冬でも室温がかなり高く、水温も高めです。
こうなると、味が今一つ良くないような気がします。
 そこで、前の晩から浸水しておいて朝炊くとか、朝出かける前に浸水しておいて夕食時に炊くといった場合、冷蔵庫で保管することをお薦めします。

(2) 米

 米の選び方を考えましょう。ざっと20年位前の「暮しの手帳」の炊飯器の比較の特集に「炊飯器の違いより、米の違いの方が味に影響する」といったことが、たしか書かれていました。古い記憶ですから、表現はかなり違うかもしれず、ご容赦ください。
 つまり、米の選び方に気をつけると良いと思う、と言いたいです。
好み―固さ・粘り・味等―は人それぞれですから、コシヒカリが1番とは限りません。また、「お弁当にするから、冷めてもおいしいのを」とお米屋さんに相談しましょう。私の近所のお米屋さんは、20種類くらい置いていて、一つ一つの特徴が書いてあり、お弁当に向く米も何種かあります。
 スーパーマーケットで米を買うのが主流かもしれませんが、専門店の良さを見直してみませんか?価格があまり高くなくて、おいしいものを選んでくれるかもしれません。
 私自身は、生協でお米を買うことが多いです。価格が低めで、おいしいからです。2月号に書きました農薬の問題もありますが、「おいしさ」「お得感」がなくては選びません。
 せっかく良い米を買っても、保管が悪いといけません。パック詰めされた物は、保管方法・研ぎ方・洗い方などの注意事項も書いてありますから、1度は読んでみましょう。お米屋さんに聞いてみるのも良いでしょう。
 搗精(玄米から糠を除いて精白米にすること)してから2週間以内に食べるのが良いと、生協のチラシか何かで読んだことがあります。玄米ですと、まだ生物として生きている状態で、保管しておいても劣化が遅いですが、搗精すると生きていない状態となり、劣化が早いです。とにかく、短期間で使い切るよう、小人数のお宅は、少量ずつ購入しましょう。
 年長者にとり「米の1升買い」とかいうのは、貧しい感覚でしょうが、今では、小まめに買うほど時間に余裕があり、おいしいものを食べられる人が豊かと私は思います。


2.炊飯器を使う前後の注意点
(1) 米に合った研ぎ方・洗い方を

 最近は精米機の性能が高くなり、昔ほど何度も研がなくても十分糠が取れるようですし、「研ぐ」というより「洗う」くらいの感じで十分の場合もあるでしょう。また、無洗米は、パッケージに書いてあることを読み、気になるなら1回さっとすすぐくらいで十分でしょう。
 なお、炊飯器の内釜には特殊加工の非常に薄い(ミクロン単位)皮膜があるので、それが悪くならないよう、ボールで研ぐことをお薦めします。こういったことも、炊飯器の説明書に書いてあることでしょうから、1度はしっかり読みましょう。なお、内釜を長持ちさせるために、金属製のたわし・研磨剤といった研磨力の強い物・尖った物は使わないようにしましょう。

(2)浸水を忘れずに
 前回も少し書きましたが、浸水はとても大事です。夏は30分以上、冬は1時間以上が望ましいです。それが出来ない場合のための炊飯器のコースがたいがいあるでしょうが、30分とは言わず、少しでも浸水すると、よりおいしいと炊飯器メーカーの方がお話なさったし、確か新聞記事でも読んだことがあります。
学生時代「調理器具論」を教えてくださった平野美那世先生も編著者の一人である「調理機器総覧 電気ガス機器とつき合う」p.193に次の記述があります。
 ササニシキやコシヒカリのような高級米(軟質米)なら内臓された吸水ステップで充分だが、標準米や古米は別に吸水時間を備けることで米のランクが上がるほどおいしくなることが以前より指摘されていた。
なお、文中の「備ける」は「設ける」の誤植でしょう。
十分浸水したら、炊飯器の「浸水済みのコース」を選びましょう。早く炊けます。
当然ですが、米と水の量は正しく計ってください。初めて購入した米を炊いて、硬いと思えば次は水を多くし、軟らか過ぎれば水の量を減らす、そういう加減が大切です。

(3)炊けて蒸らし終わったら、すぐにふたを開け、余分な水分を逃すよう、全体をしゃもじで軽くかき混ぜる。
 手持ちの炊飯器の説明書を読んで、炊飯終了は蒸らしまで終わっているか
どうか、確かめましょう。
 「余分な水分を逃す」というのは、味に非常に大きく関わります。たとえ
極上のコシヒカリを使っても、これが出来なければ、台無しです。
 そこで「塗りでない木のおひつ」をお薦めします。これに弁当分だけ入れ
てふたを開けていれば、「余分な水分を逃す」のと同時に、冷ますこともで
きます。木の香りも適度について、よりおいしくなります。私の感覚ですと、
これにより、1キロ当たり数十円分グレードアップすると思います。
 4〜5人家族用のおひつは、1万数千円以上するかとは思いますが、上手に
使うと10年以上持ちますから、勘定は十分合うと思います。
 すし飯のときは、飯台です。炊き上がった熱いご飯に合わせ酢をふりかけ、
うちわでさっと余分な水分を飛ばします。すし飯だけでなく、ご飯をたくさん冷ましたい時にも重宝します。朝炊いたご飯を入れておいて昼に食べたい場合は、乾燥しないよう布巾を掛けておきます。
 「おひつ」も「飯台」も、日本の台所から消えつつあるのでしょうが、
弁当用ご飯をおいしくするには、これほど良いものはありません。かさばり狭い台所で置き所がないかもしれませんが、せめてそれくらいの豊かさを
確保したいものです。


第5回のおわりに

 文化鍋とかでなく、自動炊飯器を使う方が圧倒的多数でしょうから、今回、炊き方自体は省きました。調理学・食品学・貯蔵学等の隙間を埋める「現代の 
生活の知恵」的なことを書けたと思います。


引用文献等
「崩食と放食 NHK日本人の食生活調査から」NHK放送文化研究所
      世論調査部〔編〕生活人新書205(2006)
「粗食のすすめ お弁当レシピ」幕内秀夫著 東洋経済新報社(2001)
「調理機器総覧 電気ガス機器とつき合う」価格帯別便利機能からメニュー提案まで
     肥後温子・平野美那世編著 食品資材研究会(1997)

参考文献等

「スタンダード栄養・食物シリーズ5食品学―食品成分と機能性―」
  久保田紀久枝・森光康次郎編 東京化学同人(2003)
「スタンダード栄養・食物シリーズ6調理学」畑江敬子・香西みどり編
 東京化学同人(2003)
「スタンダード栄養・食物シリーズ7 食品加工貯蔵学」本間清一・村田容常編 
東京化学同人(2004)
「調理科学とともに」島田淳子著(退官記念誌)(2000)
「食の器の事典」荻野文彦編 柴田書店(2005)
「別冊 暮しの手帳 お弁当」簡単おかず200品と50の詰め合わせ 暮しの手帳社(2003)
『vesta 食文化誌』2006 SPYING No.62 特集:お弁当―小さくて大きな玉手箱
   財団法人 味の素 食の文化センター(2006年5月)
『vesta 食文化誌』2007 WINTER No.65 特集:食のことば 
  財団法人 味の素 食の文化センター(2007年2月)
季刊『うたかま』2006 vol.2 特集:きょうはお弁当! 農文協 (2006年4月)
『おばあちゃんの知恵袋特別編集 本当に役立つ お料理便利帖』 別冊宝島1157
   宝島社 (2005年7月)
「ラクしておいしく わが家のお弁当」食と暮らしを考えるパルシステムCooking Book 14
  パルシステム生活協同組合連合会商品企画部パルシステム編集室 編 (2004)