オトナの食育 資料編 第3回 2007/2/10号掲載    千葉悦子(高28)


『無農薬の方が安全』とは言い切れない


 立春を過ぎると、毎年、光の中に春を感じますね。
 前回に引き続き、「食の安全」に直接かかわる問題です。
 農学部・理学部の出身でない私には、今回も難しいテーマですが、挑戦しようと思いました。というのは、「無農薬の方が安全とは限らない」といった、それまで私が常識と思い込んできたこととは異なる、新しい農薬関係についての知識を得まして、ショッキングな情報をきっかけに農薬についてより多くの方に知って頂くことが、個人の健康や公益につながると思うからです。
 今回お薦めの資料、松永和紀著「食の安全」p.82〜84に次の記述があります。
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 植物は病害虫に襲われ守ってくれるものがない時、体内で自ら撃退物質を作る場合があるのです。いわば、天然の農薬です。これが、人に有害な場合もあるようなのです。(中略)
 もしかしたら、防御物質が一部の人にアレルギー症状をもたらすアレルゲンになっているかもしれません。そんな研究成果も、2005年3月に開かれた日本農芸化学会で発表されました。(後略)

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 こういうことを知りましたとき、私は愕然としました。普通の野菜より、
「無農薬」とか「低農薬」の野菜の方が安全と考え、泥がついていて手間がかかる、事前にどんな種類の野菜が届くか分からない生協の「無農薬野菜セット」を、こどもが幼い頃は月に1〜2回購入し、生協の野菜・果物は「低農薬」なので、20年以上も買い続けてきたからです。もちろん生協以外のスーパーマーケットや八百屋さんでも野菜や果物を買っていましたが・・・。
 さらに、17年度のお茶大の再教育講座で、何人かの先生方が「植物は動物と違って逃げられない。そのため、(人間を含む動物にとっての)毒を含む場合がよくある。現在私たちが食べる「野菜」は、長年に渡って品種改良し、毒をもたない(というか、非常に少ない)タイプの物。それで、虫にとっても好都合な食べ物で、虫がつくのは当然。ところが、消費者は虫がついているのを嫌う場合が多く、殺虫剤といった農薬を使うことになる。
 そもそも、農業というのは、それ自体環境破壊。米国あたりだと、見渡す限り同じ作物を作っている。そのため、害虫も大量発生する。
なお、もともと毒のあった野菜は、何かのきっかけで、毒をもつことがある。」
といったお話しをしてくださいました。
 確かに、じゃがいものソラニンという毒は有名で、「何百年も前のヨーロッパの人たちは、南米原産のじゃがいもは毒があるからと最初は食べなかった」という話しはよく聞いたり読んだりしますよね。「白いんげん騒動」も、よく加熱しなければ、また、ゆでこぼしもしなければ、毒が問題になるほど残る例です。
 野菜というより山菜である「わらび」に発がん性の物質があることは、かなり知られているでしょう。それでも多くの人が喜んで食べます。それは、長年の食経験から「あくを抜けば大丈夫」と分かっているし、「春限定の自然の恵みである、独特の風味や歯ごたえ等を頂きたい」からなのでしょう。
 なお、農学部学生である私の長女に聞くと、こういったことを習っているというこ
とです。特別な説ではないと考えて良さそうです。
さらに昨年7月20日の唐木英明先生のお茶大再教育講座でのお話を一部紹介します。
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エイムズ教授の発見によると、
 ・すべての野菜、果物は天然の農薬(化学物質)を含む
 ・そのうち52種類を調べたところ、27種類に発がん性があった
 ・この27種類はほとんどの食品に含まれていた
 ・米国人は平均毎日1.5グラムの天然農薬を食べている。
 ・その量は残留農薬基準の10,000倍以上
 ・すなわち野菜・果物に含まれている農薬の99.99%は天然のもの
 ・残った0.01%の合成農薬を恐れて、無農薬を選ぶのか?
 以上のようなわけで、残留農薬について必要以上に神経質になるのは考え物です。

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 なお、唐木先生のお名前を入れてインターネットで検索すると、多くの情報が直接得られるでしょう。
 農薬は30年位前にはたしかに怖い存在でした。なかなか分解しなくて、蓄積する心配がありました。近頃は、虫にだけ効き、哺乳類には安全といった種類の物になり、分解性も良くなっているそうです。古い知識に縛られてばかりではいけませんね。
 そういう古い知識がありましたし、私が子育てを始めたのは22年以上も前ですし、「幼動物は化学物質の影響を受けやすい」といった知識もありましたから、私のこどもが幼かった頃、実現可能な程度、農薬を避けようとしたのです。家庭科の教員でしたから、保育分野も仕事の範疇で、「アトピー性皮膚炎・・・原因不明」などという記述を読んでは、「とにかく、悪い物は排除」と思ったものです。
 しかし、「無農薬・低農薬の方が、かえってアレルゲンが出来ているかもしれない」などということを知りましたら、もう少し農薬についてお付き合いください。

ネガティブリスト制からポジティブリスト制へ移行
 2006年5月29日、農薬に関する新制度が始まりました。
 従来の制度はネガティブリスト制で、原則的に規制がなく、特に規制が必要な物だけをリストアップして基準を設けていました。
 新しいポジティブリスト制は、農薬の残留を原則禁止します。とはいえ、残留農薬ゼロというのは非現実的ですから、農薬をリスト化して残留農薬を設定し、その基準値以内であれば販売流通を認めるものです。
 ところが、ポジティブリスト制導入決定から制度開始までに3年しかなく、試験結
果が出るまで待っていては間に合いません。
 農薬や食品添加物などの基準値を求める時は、ラットやマウスなどの動物実験で無害と確かめた量(無毒性量)の通常1/100(動物と人間の種間差 1/10、個人差1/10)を毎日食べ続けても安全な量(1日摂取許容量、ADI)として、それを基に考えます。
 なお、このあたりは、日本添加物協会のHPや同協会のパンフレット
「もっと知ってほしい 食品添加物のあれこれ」が分かり易いでしょう。
 話を元に戻します。
 すでに設定されていた残留基準はそのまま移行させることとし、残留基準がないものについては「暫定基準」ということで、環境省や
コーデックス基準(FAO/WHO合同食品規格委員会が定めた)、諸外国の基準などを参考にしたそうです。
 それでも基準を設定できなかったものには「0.01ppm」という数値を一律に適用することになりました。これは、どんな性質の物でも、人の健康を損なうおそれがないと考えられるから、ということです。
 「0.01ppm」というのは、とても厳しい基準のようです。お茶大再教育講座の受講生のお1人で、商社勤務の方が「食品を保管していて、害虫がいるからと、シュッと一吹き殺虫剤をまいただけでも検出されるかもしれないほど厳しい値。」と話されました。
 また、「食の安全」p.170〜171に次の記述があります。
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 国内の農業関係者がもっとも心配しているのが、農薬散布に伴う「ドリフト」の問題です。これは、農薬が風などに乗って、当初の目的の作物以外のものに飛んでいく現象のことで、これにより残留基準をオーバーしてしまう場合があるというのです。
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 食糧自給率が低い国であるのに、厳しい基準に少し違反したからといってマスコミ等で大騒ぎし、風評被害が大きくなったりする、そういう愚かな社会にならないようにと願います。
 今回、説明を短くしたので、不足することも多々あります。どうぞ松永和紀先生の「食の安全」をはじめ、本や各種HP等をお読みください。
 なお、松永和紀先生の「『食品報道』のうそを見破る 食卓の安全学」について
は、「オトナの食育 本編第2号(05年12月)にひじきの問題、
本編7号(06年12月)に食情報の捉え方という意味で、参考文献として載せました。

 また、食品科学広報センターのメールマガジンに、緊急シンポジウム
「ポジティブ制度が導入されて何が変わるのか」開催報告が載っています。
食品科学広報センターのホームページhttp://www.fsic.co.jp/
 さらに、日経BP社のFood Science http://biotech.nikkeibp.co.jp/fs/
も参考になります。ただし、これは全部読むとなると、月500円の購読料が必要になります。その代わり、このところ問題になっていること(不二家とか、あるあるの捏造問題など)をはじめ、残留農薬・遺伝子組換えも含め、非常に詳細・迅速にコメントされています。松永和紀先生も定期的にお書きくださっています。

第3回のおわりに
 残留農薬のことなどお読みになると、野菜を食べたくなくなりましたか?
もしそうなら、残念なことです。野菜・果物・いも・豆・海藻などは、食物繊維が豊富です。「スタンダード栄養・食物シリーズ5食品学―食品成分と機能性―」p.44によると食物繊維は「大腸内の発がん物質を吸着し、排出させる」のですし、サプリメントで食物繊維を過剰摂取すると無機質などの有用な成分までも排出させてしまうので、上記のような食品の形でとることをお薦めします。
 また、残留農薬は水洗い・調理(皮をむく・ゆでこぼす・加熱するなど)・
加工でかなり減少しますので、妊娠中の方とか、離乳食作りをなさっている方などでご心配なら、そういう方法でさらに安全性を高める方法もあります。
 私個人としては、冒頭のことを知りましても、向かいにスーパーマーケットが出来ても、今まで入っていた生協をやめようとは思いません。それは主に次の二つの理由からです。
 まず、おいしい商品があるということです。もちろんデパ−トにおいしい物が売っ
ていますが、普段使いには価格が高過ぎますし、重い野菜や果物をたくさん日常的に運ぶことは、難しいです。
 次に、慣行栽培より農薬の使用回数・量を減らしているということで、それがもし本当なら、農薬の使い方がずさんではないと期待されます。
 再教育講座の先生方や、長女の大学の先生方がお話になるのですが、
「農薬というのも一種の技術で、いつかは効かなくなるときが来る。一つの技術を出来るだけ長く使うことが大事で、それには、使い方をきちっとすることが必要。なお、一つの農薬を開発するのに、膨大な費用がかかる。」とのことです。

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韮高有慶館耐震補強工事について思うこと
 工学部出でもないのに、老婆心ではありますが、自分の子どもがシックスクール問題に巻き込まれた経験から書きます。
 4年近く前、末子の通う区立小学校が耐震補強工事後、シックスクールとなりました。区が頼んだ業者による空気の測定では、それほど悪い結果ではありませんでしたが、保護者の1人がそういうお仕事でしたので、「研究として」といった名目で、無料で検査なさったところ、オーダー違い、基準値をはるかに上回る結果でした。テレビや新聞にも載るほどの大問題で、早稲田大学の田辺新一教授がお世話してくださるほどでした。
 基準値を上回る体育館でその対策の集会があったので、参加すると、ほんとうに頭が痛くて気分が悪かったです。
 財源が許す限り、良い材料を使い、十分換気をし、検査は複数行い、安全を確かめてからお使いになるよう、望みます。
 シックハウス・シックスクールでは、残留農薬や食品添加物の心配をしている場合ではありません。
 細かいことばかりに気をとられ、大きな問題の対処を忘れることのないように、と思います。
 以上のような経験も含めて、食の安全を考える場合、食全体、生活全体から考える視点を忘れないようにしたいと思います。