オトナの食育 
資料編 第18回(通巻89回)2013/9/10号掲載 千葉悦子(高28)

「ケンカ白熱教室! 放射能はどこまで安全か?」のお薦め


 今年6月に幻冬舎から「ケンカ白熱教室! 放射能はどこまで安全か?」が出版され、私は多くの人にお読み頂きたいと願い、今月はこの紹介をします。著者は、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏と日本原子力研究開発機構の小林泰彦です。小林氏は、私が所属する「食のコミュニケーション円卓会議」の会員で、月に1回程度の例会でお目にかかり、食品照射についての体験実験をここ数年間一緒に積み重ねてきたメンバーでもあります。

 この本は、2013119日に千葉県柏市で催された上記二人の対談講演会「放射線対策と原発の明日 2013」にいらした幻冬舎の方が、「本にしましょう」と提案して、その対談をもとに編集したものです。本のタイトルは、「売れるように」と流行を取り入れて軽い感じがするでしょうが、著者ではなく出版社が考えたものなので、著者の人格とは無関係です。

 1月の対談講演会を企画した団体は、3.11以降の放射能を非常に心配する人たちで、対談者として先に小出氏を立て、その相手を探したのですが、なかなか引き受け手が見つからなかったそうです。過剰に心配する人たちの団体が主催するので、「心配ないレベルのことは心配せず、リスクのトレードオフ(避難により生じる無理な転職や家族離散等の問題)が起きないように。」などと説明するタイプの人は、感情的になるかもしれない会には参加したくないものです。このような中、果敢に小林氏が引き受けたという経緯があります。

 このタイトルからすると、タイトルの命名者は「すべてのレベルの放射能が危険」とは考えておらず、「どこまでなら安全で、どの辺から危険なのか?」と受け止めていると想像できます。

 小林氏の担当部分に「低線量の放射線は高線量の放射線の縮小版ではない」とあり、モンテカルロ・シミュレーションという方法でセシウム137のガンマ線がそれぞれの細胞にどのように当たるか、コンピュータの中で再現したCGで説明していて、物理音痴の私でも、ゆっくり読めば理解できました。これがわかると、LNTモデルLinear Non-Threshold model、放射線の蓄積線量に比例して、発病リスクも増加する)が正しいとは限らないという考えが理解できます。けれど、ICRP(国際放射線防護委員会、International Commission on Radiological Protection)は、低線量放射線のリスクを絶対に過小評価しないという決意に基づき、LNTモデルの正誤(しきい値のあるなし)は棚上げして、しきい値はないと仮定して防護するのがいいだろうという立場をとっている、という説明も理解しやすいです。そういう訳なので、ぜひ本を手にとってモンテカルロ・シミュレーションという方法での図表をご覧になりながら、お読みください。

 「放射性物質の基準値以下のものしか市場に出回らないようにしていると言っても、ゼロではない場合があるのでしょ?」と心配な方は特にお読み頂きたいです。なお、ゼロリスクについては、オトナの食育 所感編 第37(通巻69)2012/1/10号掲載の「科学的な考え方を広める年に その1~ゼロリスクを求めず、リスクのトレードオフや無駄をなくしましょう~」をご覧ください。

 このところ、福島第1原発からの汚染水の問題がニュースになりますが、市場に出回る食品については分けて考えましょう。安全性が非常に高い理由をよく理解できると、より安心して福島やその周辺の産物を食べられることでしょう。風評被害をなくして、東北の産物を買うことで応援をし、復興を少しでも早めたいと、3.11から2年半経つ今、強く願います。

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主な参考文献等
小出裕章・小林泰彦「ケンカ白熱教室! 放射能はどこまで安全か?」幻冬舎2013
波乱万丈いわた書店日記、201394日検索http://tooru.air-nifty.com/iwata/2013/07/post-e95a.html
朝日新聞201394日朝刊 「汚染水 急場の国費」<首相「世界中が注視している」>「政権 ようやく危機感」
   「東電、破綻処理するべきだ」「責任 あいまいなまま」

朝日新聞201394日朝刊 「漁師くじく汚染水」「福島沖の試験操業延期」「この浜は終わり」
   「東電は安全よりコスト優先」「漁協説明会 相次ぐ批判」「魚の放射線量 改善傾向