オトナの食育 資料編 第15回(通巻62回)2011/6/10号掲載 千葉悦子(高28)
DVD「1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡るのか」
パンフレット「1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡ったのか」アメリカ穀物協会 のお知らせ


 

 今月は、上記資料についてです。3月11日の大地震や、生肉の腸管出血性大腸菌O111の食中毒の問題がなければ、4月号あたりでお知らせするつもりでした。
 4月号に書きましたように、いざというとき、日頃から食料を含む生活に必要な物について知識がないと、適切な判断に基づく行動がしにくいです。
それなので、資料のお知らせも意味があると思います。
 たとえば「遺伝子組換え作物」と聞くと、「食べたくない」と反応する日本人がまだ多いようです。しかし、既に食べているということは、「オトナの食育」資料編第2回2007年1月号で書きました。

米国の農業の様子を知りましょう
 「遺伝子組換え作物からできる食品を食べているし、それによって健康被害などは起きていない」という事実があっても、納得できない人にお薦めです。そもそもアメリカの農業の規模や方法などが、日本のそれとは非常に違う、と知ることが第1歩です。海外旅行が普通になったとはいえ、農場に足を運ぶ人は少ないでしょうから、見渡す限り畑が続く景色を含む、このDVDはまさに「百聞は一見にしかず」です。
 この資料に出てくる農場のように、大規模で効率良く農業をするから、安価に安定して作物が大量にできて、日本を含めて輸出もできるのだと理解できます。また、平地がずっと続いて遮るものがなく、日本とは地形や環境が異なると分かり、
表土の流出」が問題になるのだろうと納得できます。

遺伝子組換えは環境に良い面がある
 遺伝子組換え作物の1種である「除草剤耐性作物」は、「生産者にとって都合が良いだけ」と決めつけがちですが、実は環境保全持続可能な農業に大切な「不耕起栽培」が可能になるのです。土を耕す一番の目的は雑草防除です。除草剤耐性作物を栽培すると、雑草が茂らないようにと土を耕さずに済むので、土壌の流出や侵食が減るということです。しかも、耕すために機械を動かす必要がなく、その分、農業に必要なエネルギーを減らせます
 このようなことを知ると、「米国で栽培されるトウモロコシの86%(作付け面積率)は遺伝子組換え作物。米国から日本に輸出されるトウモロコシの内、約7割が遺伝子組換え作物と言われる。」ということを、すんなり受け入れられるのではないでしょうか?

1600万トンとは?
 DVDは14分強と短く、説明は多くないため、合わせてパンフレットもご覧になると、より理解ができます。たとえば「1600万トン」と言われても、ピンときませんが「米と小麦の消費量を合わせた量よりも多い」「パナマックスと呼ばれる積載量5万トンの巨大なタンカーが、3日に2度、日本の港に着いていることになる」と説明されると、イメージしやすいでしょう。
 なお、農水省ホームページを見ると「日本の米の収穫量は平成22年度、約848万トン」ということで、日本の米の収穫量の約2倍も米国からトウモロコシを輸入していることになります。

トウモロコシは形を変える
 米国からのトウモロコシの大部分はそのまま食べるのではなく、飼料や油などに形を変えるので、普段気付きにくいです。が、パンに塗るバターや、食用油も、油を使う食品―たとえばマヨネーズ・ドレッシング・スナック菓子・ほとんどの洋菓子、卵・牛乳・肉、コーンスターチや甘味料など、非常に多くの食品に変身して、日本人の食生活を支えています。さらに、食べ物以外でもバイオエタノールの原料、接着剤、DVDやブルーレイディスクの原料にもなっているそうです。

無料の資料を上手に利用しませんか?
 「アメリカ穀物協会にからめ捕られてはいけない」といった気持は私にもありますが、家庭科の授業などで、教師がきちんと説明を加えて見せるなら、誤解は少なかろうと思います。「ただほど怖い物はない」と消費者教育で教える立場ですが、予算の少ない現場の者としては、このような資料を適切に活用することは賢いと考えます。
 申し込み先
 アメリカ穀物協会 浜本哲郎様 電話03−3505−0601
               Emal:thamamoto@grains-jp.org
お詫び
5月号の終わりに「次号でもっと説明したいと思います。」と書きましたことを今月は実行できませんで、申し訳ございません。私の仕事が一段落したら、取り組みます。

引用文献等
農林水産省HP
「1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡ったのか」アメリカ穀物協会(2010)
主な参考文献等
シリーズ「地球と人間の環境を考える」「食の安全と環境」―「気分のエコ」にはダマされない―
    松永和紀 日本評論社(2010) 
「食生活データブック2010」 農林統計協会編
DVD「1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡るのか」アメリカ穀物協会(2010)