オトナの食育 資料編 第12回 2008/8/10号掲載    千葉悦子(高28)

 夏休み特集
食品の値上げと遺伝子組換え食品
子どもと科学を楽しもう


 

 

      
☆はじめに・・・食品の値上げにより、安価な食品を求める消費者の
          真剣さに出会う

 暑い季節に食品の値上げの話で恐縮です。偶然とってありました日本経済新聞08年4月7日朝刊に<コメ価格急騰アジアに波紋 タイ、3ヶ月で2倍に 印・ベトナムが輸出抑制 国内消費優先>、朝日新聞08年4月11日朝刊に<穀物急騰 アジア圧迫 値上げの連鎖 市民直撃 インド半年で倍に フィリピン 軍がコメ警備>という記事があります。
 日本での値上がりについては、記事を紹介する必要もないほど、それぞれが実生活の中で実感なさっていることでしょう。私は今年の初夏、近所のスーパーが開催した日曜日の朝市へ行き、買い物客の多さとその殺気立った雰囲気に驚きました。たしかにその日の目玉商品は誰もが必要とする品で、魅力的な低価格でした。お客さんたちは自分の生活を防衛し、低価格なほしい商品を絶対買い忘れてはいけないといった真剣さがありました。
 普段その店は、「買い物を楽しむ」穏やかな買い物客がほとんどです。また、忘れ物をする生徒や学生の気楽な感じに慣れている私としては、比較的近所の人の意外なパワーに触れ、今後、食品の値上げがひどくなれば、社会不安になりそうと恐くなりました。

☆遺伝子組換え食品について
1. 有名新聞1面に遺伝子組換え記事

 朝日新聞08年7月20日朝刊1面に<第4部 食糧ウオーズ@ 遺伝子組み換えへ傾斜 食糧高騰・温暖化で風 賛否の均衡破る商機>、2面に<農業の未来か幻想か 「高機能」品種 進む開発 国内にも静かに浸透 表示義務に「穴」 分断される土地と人>が載りました。とうとう有名新聞の1面に遺伝子組換えのことが載るほど、遺伝子組換え作物のことを考えないわけにいかなくなってきたのだろう、と思いました。
 私は07年1月号の『オトナの食育』資料編第2回に、「遺伝子組換え作物による食品を気付かずにとっている」と題して書きました。まさかこんなに早く問題になるとは思っていませんでしたが、いつかは確実にその日が来ると思うからこそ書きました。
 大まかなところ前回書きましたことと変更ないですが、より遺伝子組換え作物の作付け面積が増えています。朝日新聞08年7月19日朝刊<GM作物じわり食卓へ 日本の事情よそに世界で急拡大 求められる議論>の記事の<日本の輸入状況と日本向け輸出国の「遺伝子組み換え」作付け割合(07年)>によると、トウモロコシは16633千トン73%、大豆は4161千トン91%、菜種は2134千トン84%です。
 なお、GMとは遺伝子組換えのことです。こういう数字を見ると、待ったなしに考えなくてはならないと思われます。

2. 遺伝子組換え作物なしでは、食べ物が不足するかも
 朝日新聞08年7月19日朝刊の同上記事の中に次の部分があります。
 「組み換え作物への一般的な評価が定まるまでには時間がかかるが、輸出国の生産状況を見れば、食料自給率39%の日本は、非組み換え作物の調達が急速に難しくなっていることを認識する必要がある」と、宮城大食産業学部の三石誠司教授は指摘する。
 さらに、同記事によると、深刻な干ばつに見舞われたオーストラリアは干ばつ耐性の組換え小麦の開発について具体的な日程を示したそうです。
 また、「遺伝子組換えは嫌、残留農薬が他の国に比べて厳しい基準、そういう口うるさい人口1億強の日本より、人口の多い中国・インドなど他の国を相手にする方が商売として将来性があるので日本の基準に合わそうとしない、そういう風潮になるかも。お金を出しても非遺伝子組換え作物を買えない事態になるだろう。」と話す人もいます。私はこの意見を否定することはできないと思います。

3. 実際、遺伝子組換え作物を利用する動きもある
 朝日新聞08年7月20日朝刊記事に次の記述があります。
  コースターチを製造する三和澱粉工業(奈良県橿原市)今春、遺伝子組み換えトウモロコシの一部使用に踏み切った。穀物高騰のあおりで、非GM原料が品薄となり、価格も高くなったためだ。

4. そもそも非遺伝子組換え作物を使用する理由は?
 組換え食品の表示を01年から義務付けることになり、メーカーや商社などは消費者の間にある遺伝子組換えに対する否定的なイメージを考えて、「遺伝子組み換え不使用」と書くことによって、そうでないものより選んでもらえるだろうと考えたようです。要するに単なる販促という面があります。

5. 食べても安全と考えられるのだから、パニックにならないことが大事
 『オトナの食育』資料編第2回で書きましたように、遺伝子組換え作物は、少なくとも食べる分には従来の作物と同等に安全なので、今後遺伝子組換え作物とその食品が増えていっても、パニックにならないことが大事と私は考えます。たとえ将来、「遺伝子組み換え不使用」と書いていない納豆・豆腐・しょうゆ・油等しか得られなくなったとしても、ひどく悲しみ、恐れる必要はないと考えます。

6. 割り切れない思いは私にも
 遺伝子組換え作物の研究や栽培が進んでいるのは米国です。米国のやり方を世界のスタンダードとして当然採用すべきだとゴリゴリ押し通してくる感じがなんとなくして、抵抗したい気分が私にもあります。弱い者が強い者に屈しなくてはならない屈辱のような感じもします。しかし、日本は自給率が非常に低いので、「関係ない」と言ってはいられません。

7. 大切なのは、日本人自身が食品について学んで、主体的に選ぶこと
 私がいつも残念に思うことの一つは、女性の参政権も男女共同参画社会も、外圧によって、特に男性にとっては「仕方ない」といった感じで決まることです。朝日新聞08年7月19日朝刊同上記事の締めくくりは次です。
  確かなのは「どこまで解明され、未解明なのか」といった科学的な議論を含め消費者への情報提供がないまま、非組み換えにこだわる日本の外堀が埋められているということだ。
 私は少し違うと思います。全く情報提供がないわけではないからです。テレビコマーシャルのようにはいきませんが、内閣府食品安全委員会は機関紙を出していて、各図書館に配布しているそうですし、HPもそれなりに充実し、希望者にメルマガも無料配信しています。『オトナの食育』資料編第2回にも遺伝子組換えについての資料を提示しました。
 情報を得ようと思えば、お金を掛けなくても、かなり得られるはずです。
 必要なことを知ろうと努力し、得た知識・情報をもとに主体的に商品を選び、政策を考えながら選挙できると理想的でしょう。たしかに全てを知ることは不可能ですが、食べないでは生きていけないので、食についてはある程度知る必要があると思います。
 「時間がない」と言いながら、息子がお笑い番組を長々見ていることから考えますと、案外、良質とは思えないテレビ番組とか宣伝とかに知らず知らずに時間を取られている人も多いのではないでしょうか?流されていないで、時間の使い方を再考してはいかがでしょう?

8. 動画「遺伝子組換え食品って何だろう?〜その仕組みと安全性〜」
 ネットの「政府広報オンライン」ではいろいろな動画が見られるようになっています。その一つに「遺伝子組換え食品って何だろう?〜その仕組みと安全性〜」もあります。食品安全委員会のHPの「キッズボックス」をクリックなさると、この動画に行きやすいです。


☆子どもと科学を楽しもう
9. 夏休みにお子さんと一緒に食を始め、科学の知識を新しくしませんか?

 食品安全委員会は、8月に小学校5・6年生とその保護者を対象にしたイベントをするそうですが、締め切りを延ばすほど、応募者が少なかったようで、先日新聞に募集が載っていました。新聞に載せると、税金をその分使うので、できれば、国民の方からアクセスできると良いですね。来年の小5・6年生をもたれる方は、来年7月の早いうちから食品安全委員会のHP等を気にされることをお勧めします。なお、ひょっとしたらまだ今年の8月26日の分はまだ間に合うかもしれないので、参加希望の方は問い合わせてはいかがでしょう?
 また、朝日新聞08年7月25日朝刊に興味深い記事を見つけましたので、次に載せます。
  今年は、メーカー5社でつくる「日本うま味調味料協会」が主催する展覧会が、8月21日から30日まで東京・日本橋、三井本館5階の国立科学博物館で開かれる。同月23日と24日には、隣の日本橋三井タワーで「うまみ体験」コーナーも開設される。
 私自身は小・中学生の頃、三島から東京の上野動物園・博物館等に行き、良い刺激でした。銀座のソニービルで当時最新のテレビ電話を使って母と話したのは楽しい思い出です。
 遠くまで出かけるわけに行かない方は、朝日新聞08年7月19日朝刊「子ども 楽しくおいしく理屈実験 料理で科学実験!」といった記事を使うなどしてはいかがでしょう?小学生の頃、私の伯母は、朝顔の色水を素敵な容器に入れ、手を後ろに回し香水を入れて、子どもたちを喜ばせてくれました。
 私は、朝顔やそれに近い感じの花・紫キャベツ・ナスの皮・ぶどうの皮などはアントシアニンなので、酢やかんきつ類で酸性にし、重曹や石けん液でアルカリ性にすることにより、それぞれ色の変化を子どもに見せて遊んだものです。
 高学年以上の子どもには、DNAの抽出実験はいかがでしょう?エタノールさえ買えば、あとは家庭の台所にあるものでできそうです。やり方は農林水産省発行の「Do you know?」という無料でいただける冊子に載っています。
 小さいうちから「科学はなんだか楽しい!」「料理も科学で楽しい!」と子どもに思わせるような工夫・努力が必要と思います。そういう地道な積み重ねが、科学好きを増やし、賢明な選択・思考ができる人を増やすことにつながり、国や地方の進路・政策についてもより深く考えて行けるのはないでしょうか?

10.「食料、その量と安全性の確保」の資料のお勧め
 08年6月に「21世紀の科学技術リテラシー像〜豊かに生きるための智〜プロジェクト 総合報告書」Science for All Japanese が誰でもネットで読めるようになりました。このプロジェクトは、平成18年度科学技術振興調整費の支援を受けた、日本学術会議と国立教育政策研究所の共同プロジェクトです。
 その中のp.166〜p.182「食料、その量と安全性の確保」は唐木英明先生(資料編第3回参照)がお書きになられ、お勧めです。ただし、遺伝子組換えは載っていません。が、分かりやすい文章で食の安全についてのミニマムを把握できます。
 向学心の強い中学生なら何とか読めそうです。一般的には高校生以上と思います。

☆終わりに・・・ ややこしいのは嫌という方へ
 同窓生にはこの項目は不要かもしれませんが、ちょうど良い記事を見つけたので書きます。
朝日新聞08年6月20日夕刊 「人生の贈りもの ややこしさを楽しもう」で森毅、京都大学名誉教授が次のように書いていらっしゃいます。
 ややこしいのって、いいのよ。慣れんとしゃあない。これだけ多様化の時代やからね。ややこしいのを楽しんだ方がいいんです。(中略)楽しんでいるうちに力がついてくるの、元来ね。でも、力なんかつけんでもええから、楽しんでたらええんやないの。
 知識自体も、「慣れ」というのはあると思います。07年1月号の『オトナの食育』を書いた頃の私は、まだ有用な遺伝子を組み込むこと自体に違和感がありましたが、そういう世界の話を伺ったり、本を読んだりするうちに、違和感がなくなって参りました。自分でも自分の変わりように驚きます。そして「中年になっても、考え方・感じ方が変わることがあるのだ」と思いました。
 暑さが続きますので、大きな無理はなさらず、ややこしいのを楽しんでいきましょう。

■引用文献等■
朝日新聞08年7月19日朝刊「GM作物じわり食卓へ 日本の事情よそに世界で急拡大 求められる議論」
朝日新聞08年7月25日朝刊「DO科学 偉人をたどる うまみ解明 
  池田菊苗 五つ目の味 とらえた! 昆布煮出しグルタミン酸 トマト・チーズにも多く含有」
朝日新聞08年6月20日夕刊 「人生の贈りもの ややこしさを楽しもう」 森毅
■おもな参考文献等■
「21世紀の科学技術リテラシー像〜豊かに生きるための智〜プロジェクト 総合報告書」
  Science for All Japanese http://www.science-for-all.jp/ 科学技術の智プロジェクト
「植物まるかじり叢書D 植物で未来をつくる」松永和紀 化学同人(2008)
「Do you know?」遺伝子組換え農作物入門プログラム 農林水産省(2008)
日本経済新聞08年4月7日朝刊
  「コメ価格急騰アジアに波紋 タイ、3ヶ月で2倍に 印・ベトナムが輸出抑制 国内消費優先」
朝日新聞08年7月19日朝刊「子ども 楽しくおいしく理屈実験 料理で科学実験!」
朝日新聞08年4月11日朝刊
  「穀物急騰 アジア圧迫 値上げの連鎖 市民直撃 インド半年で倍に フィリピン 軍がコメ警備」
朝日新聞08年8月1日朝刊「今月も値上げ ガソリンや食料品」
日本経済新聞08年8月3日朝刊
  「エコノ探偵団 米価までなぜ値上げ輸入米、援助や資料に回る  国産米も加工用減る」
朝日新聞08年7月17日朝刊<底知れない「孤立貧」自殺者10年連続3万人超過>鷲田清一
朝日新聞08年8月4日朝刊
  <クロストーク 鷲田清一さんに政治学者 刈部正さんが聞く 
  「わかりやすさ」の危うさは いらだちや暴力性を感じる 「思考の熱狂」あおらないで>