オトナの食育 資料編 第10回 2007/9/10号掲載    千葉悦子(高28)


 お子さんがいる方へ その2小学生から保護者・教員まで
「おいしいハンバーガーのこわい話」の紹介
画一化への抵抗

 


  9月に入り、東京や三島あたりは連日35℃前後の猛暑から抜け出せ、楽になりました。8月に帰省しましたとき、昼間は東京区部とそれほど差がありませんが、夜から朝にかけての気温の違いを感じました。東京にも、もっと豊かな土と緑を願います。「目先の経済効率追求だけでは快適でない」とつくづく思います。

 さて、今回のお薦めの本は「おいしいハンバーガーのこわい話」
 “Chew on This Everything You Don’t Want To Know About Fast Food” by Eric Schlosser です。
 7月号の「コンビニ弁当16万キロの旅」、8月号の「いのちの食べかた」に比べ、文章の量が多くてイラストやルビが少なめです。小学校高学年以上が読むものでしょう。勤務先の中学校で『自主研究』(総合的な学習とイメージしてください)という授業を担当し、3年生の1人がファーストフードについて調べていて、この本も読んでいました。私も読んでおかないと指導も評価もできそうにないと思い、読みました。
 書名をネットで検索するとかなり情報が得られますが、私なりに少しコメントします。
 著者のエリック・シュローサーによる「ファーストフードが世界を食いつくす」“Fast Food Nation”は世界的なベストセラーとなり、全米の大学で指定図書になっている、と本書のカバーにあります。それをティーンエイジ向けに書きなおし、新しく内容をつけ加えた本なので、中学生ならたいがいの子が読めるような配慮がされていると思います。表現は難しくないけれど、内容は高校生やこの方面に疎い大人にも十分耐えられるものと思います。
 本書p.33に次のようにあります。
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  フランチャイズで成功するための鍵は、ひとつの単語で言い表せる
―― 画一性(ひとつひとつの特別な事情を考えず、すべてを同じにそろえること)だ。

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 ところで、「画一性」には問題があることを、私は韮高1年生のときの家庭科の授業で初めて知りました。石和千鶴子先生(当時、県立三島南高校教諭で、韮高の授業も担当されていた)が教えてくださいました。家庭科に対して私が魅力を感じ、印象に残りましたことの一つです。細部は忘れましたが、「隣の家のカレーと同じで良いのか?以前はその家その家の味があったもの。」といったお話でした。当時の私は「少しくらいは食事について画一的でもかまわないのでは?でも、画一化が進み、行き着くところまで行き着くのはだめかな?難しいなぁ。」などと考えていたと記憶します。
 経済効率を追求し、ひたすら画一性を徹底させると、最後にはどうなるかが、本書を読むと分かります。
本書p.81に次のようにあります。
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  内容がつまらなくて、賃金が低くて、手に職がつかない仕事は“マックジョブ”と呼ばれている。
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 さらに本書p.155〜157に
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  1970年に大手4社が市場に占める割合は、わずか21パーセントだった。
ところが、やがてファストフード・チェーンが成長しはじめ、それにともなって肉の納入業者も大きくなりだした。(中略)今日、精肉業界の大手4社(中略)は、市場のおよそ84パーセントを占めている。(中略)
  たった4つの大手精肉会社しか残っていないせいで、近ごろでは入札というものがほとんど存在しない。(中略) 毎年、何千人もの牧場主が、もはや自由とは思えなくなった市場によって仕事をやめさせられているのだ。

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 そのうえ本書p.160〜161には仰天な記述があります。
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  2004年の秋、(中略)大きな肥育場で、糞の山に火がついた。(中略)重さ1800トンあまり、高さ10メートル近くの糞の山がひとたび燃え出したあとは、なかなか火を消しとめられなかった。(中略)大量の水をかけたら近くの川が汚れてしまうだろう。うんちの大きな山は4ヵ月近く燃えつづけ、何キロにもわたって煙を漂わせた。
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 残念ながら、35年以上前から石和先生をはじめ、家庭科の先生方は
「画一化の問題」について憂いていらしたのに、世の中は経済効率優先による生活の画一化がずいぶん進んでしまったと思われます。日本での家庭科の共修がもっと早く始まっていれば、社会の中枢に位置する男性にも、若い頃からそういった視点を与えることができ、ここまで画一化が進まなかったのでは?と悔しいです。
 過ぎ去ったことは詮無いので、自分ができることとして今回書くことにしました。『オトナの食育』を担当し始めた頃は、「自分が高校時代に教わったことでは読者に申し訳ない、もっと深く・広く」と思っていました。が、教員により重点を置くところが違う場合がありそうですし、また、家庭科を履修した女性でも忘れることもありますし、男性はだいたい30歳以上の方は履修なさっていないので、遠慮し過ぎず書いてみようと思いました。
実際、小学校の教員を目指す学生さんたちに教えてみると、「高校までに習ったでしょ?」と思うことを知らないことが多い、ということが分かりました。
 塾通いに伴うお腹を満たすための外食、休日の外出中の外食、あるいは運動会・文化祭の打ち上げと称する子どもたちだけの外食は、「早い・安い・旨い」と3拍子揃い、子どもでも違和感なく出入りできるファーストフード店の利用が多くなりがちでしょう。しかも、高校生になると、ファーストフード店でアルバイトする生徒も出てきます。前回も書きましたように、親や教員がファーストフードの問題点を説明するのでは、ティーンエイジャーは、軽く考えてしまいそうです。本書等を読んで、ファーストフードを利用することによる自分や社会に与える影響を理解した上で、自己の行動を決定できるようにと希望します。そういうわけなので、今回お勧めの本も、(小)中高の図書室、地域の図書館にぜひ置いてほしい1冊と思います。
 なお、食品添加物についての記述は否定的な方に傾いている、と私は思いますが、あえてお薦めします。というのは、中学生が読んで分かるような表現で、かつ、内容が深い完璧なこの方面の本など、他に見当たらないからです。この本は、ファーストフードの歴史も分かりやすく解説してあり、全体像を大まかに把握するのにうってつけです。「この本も含めて『鵜呑みにしない』」ということを、学校の教員も含め周囲の大人が若い人の心に残るように伝えることができると良いと思います。


 画一化への抵抗―ラタトゥイユ和風味付けの提案も
 食についての画一性の対極は、「自給自足」「辛味大根のような、その土地でしかとれない品種の野菜」「素材から作る料理」あるいは「決してデパート・駅ビル等に出店しない、支店を出さないお店」等でしょうね。次回から、調理の基本や食品を選ぶ際のちょっとしたヒントを中心に書きたいと考えております。
 次回以降を待っていられない方のために、この時期を逃したら来年まで作れそうにない野菜料理のヒントを書き加えます。
 日本経済新聞2007年8月24日夕刊に掲載された「土井善晴の食卓応援団 021夏野菜」に掲載された夏野菜の煮物は、比較的簡単・美味で失敗が少なそうです。土井先生のこのシリーズは毎回、一つ一つの調理の手順を写真入で丁寧に説明され、管理栄養士さんの説明もしっかりしているので、楽しみにしています。2週間以上前の新聞などとっておかない方のために、ヒントを書きます。

 『オトナの食育』本編、第6回2006/8/10 メルマガ掲載分に、ラタトゥイユを載せましたが、これをしょうゆ・酒・砂糖・しょうがの味付けにしたものです。土井氏は「薄口しょうゆ」を勧めていますが、関東では常備しないお宅が多いでしょうし、私自身もそうです。その場合は、しょうゆを少なくして塩も足します。土井氏のレシピですと、4人分(千葉のレシピより多いです)につき、しょうが40gも使用していて、多過ぎるかな?と心配しましたが、作ってみると大丈夫でした。けれど、しょうがの嫌いな人には、入れなくても十分おいしいと思います。また、しょうが入りの和風味なので、ラタトゥイユの元の香辛料である、にんにくやブーケガルニ等は使いません。
 塩分控えめに味付けし、それに伴い砂糖も控えめにすると、野菜の旨味をより楽しめます。また、塩や砂糖を控えめにする方が、無理せず野菜をたくさん召し上がれることでしょう。そして、野菜の微量栄養素や食物繊維を十分摂取なさり、この記事の中で管理栄養士海老久美子氏が述べていらっしゃるように「残暑に負けないための一品」として、また「画一化への抵抗」の具体的方法の一つとして、実生活に取り入れてはいかがでしょう?


資料編の終わりに
 2006年11月に始めました資料編を、ひとまず今回で終わりにします。
 第1回でご紹介しましたDVD「スーパーサイズ・ミー」を見て、その監督の書いた「食べるな危険!!」、第8回「コンビニ弁当16万キロの旅」、第9回「いのちの食べかた」それから今回の「おいしいハンバーガーのこわい話」を全部読めば、思慮深い生徒が育つと思うのですが、甘いでしょうか?
                                 
                                 料理&写真撮影 編集担当 A.F
◇引用文献等◇
「おいしいハンバーガーのこわい話」
  エリック・シュローサー・チャールズ・ウィルソン著 宇丹貴代美訳   草思社(2007年5月)
Chew on This Everything You Don’t Want To Know About Fast Food   by Eric Schlosser 
日本経済新聞2007年8月24日夕刊  土井善晴の食卓応援団 021夏野菜
   厨房でつづるドキュメント 夏野菜の煮物

◇参考文献等◇
「都市に自然を回復するには」    野村圭佑 どうぶつ社(2004)
NHKたべもの新世紀「食の挑戦者たち」 NHKたべもの新世紀取材班 NHK出版(2002)
暮らしの中の食と農1「問われる食の安全性」 中村靖彦 筑摩書房ブックレット(2002)
暮らしの中の食と農9 「有機農業と消費者のくらし」 白根節子 筑摩書房ブックレット(2003) 
朝日新聞2007年7月8日朝刊 売れてる本   おいしいハンバーガーのこわい話
朝日新聞2007年4月12日朝刊 流 プチ背徳心で大人気 メガマック
朝日新聞2007年6月8日朝刊 情報フラッシュ マックまた巨大バーガー
朝日新聞2007年6月30日夕刊 カロリー表示論争  NY市規制「メニューに大きい文字で」 
               バーガー業界「メニュー内は読みにくい」
              市民「健康わかっちゃいるけど・・・」
日本経済新聞2007年9月3日夕刊  広角・鋭角 都心に浮かぶ緑の島
               皇居はオアシス@ 貴重な動植物、今も生息