オトナの食育 資料編 第1回 2006/11/10号掲載    千葉悦子(高28)


食の社会的問題を楽しく端的にとらえられそう!


 ご挨拶
 10月号に最終回と書きましたが、今月からしばらく「資料編」と題し、皆様にお知らせしたい書籍・DVD・ホームページ等の紹介をさせてください。
 7回にわたりました「バランスの良い食生活」は、高校で家庭科を習わなかった方でも、食分野について基礎知識や現在の問題を1年間くらいで把握できるようにと考え、1回1回がつい長くなりました。
 メルマガとして読みやすいという意味で短かく、それなりの情報をお送りできるスタイルを考えました。
また、「オトナの食育」を始める当初「教育職・子どもを育成するボランティア・育児などをなさっていて、家庭科だけでなく小学校の生活科・総合学習・ホームルーム・給食・バザーなどでの食事提供、といった場面での指導にあたる方にも役立つことを入れたい。」と書きましたが、7回では資料を十分載せられなかったと反省しております。
 そういうことで、今回からお薦めの資料を少しずつ紹介していきます。
 情報洪水の中、私は全体を俯瞰することなどできません。
偶然受け取った食の情報の中から、お知らせしたいと思ったものを、順序立てせずに、少しずつ載せます。この点、ご了承ください。

お薦めの映画(DVD)ドキュメンタリー
 「スーパーサイズ・ミー」

   モーガン・スパーロック監督・主演(被験者)
お薦めの本
 「食べるな危険!!」
 スーパーサイズがあなたをスーパーサイズ化する

   モーガン・スパーロック著  伊藤真 訳 角川書店 
   平成17年7月初版
   原書“Don’t Eat This Book
       :Fast Food and the Supersizing of America”
       Morgan Spurlock (2005)

 「スーパーサイズ・ミー」は、2004年サンダンス映画祭で初めて公開、スパーロックの長編第1作は最優秀監督賞を受賞し、アメリカでは同年5月から劇場公演されたそうです。全米トップテンの第10位にランクイン、夏には合計1000万ドルの収益を上げ、ドキュメンタリー映画としては史上第3位の収益ということです。
 日本では2005年の正月映画で、少数の映画館でしか上映しませんでしたが、DVDとなり、有料テレビで放映されました。
ネットで検索すると何万もの情報があり、今さらの感もしますが、私なりに紹介します。
 私は映画館に足を運ぶことが非常に少ないのですが、これだけは見に行きました。とにかくおもしろい。家庭科の教員としては「負けた」と思いました。私の拙い授業では「脂質・砂糖の摂り過ぎに注意」 「食に関する社会の仕組みやそのあり方、個人の対処」 「食文化」 といったことが、どこまで浸透するか疑問ですが、この98分間の映画をみると、かなり印象が強いでしょう。
 ところで、韮高27回生の亀山千広様が若き頃、映画製作のお志を立てられ、実際制作者になられたいきさつを以前、韮高同窓会メルマガで拝読した記憶があります。この映画をみて、優れた映画の大きな力を再認識し、先輩(などと軽々しく言えない偉い方ですが・・・)の志の高さに敬服します。 
 30日間マクドナルドの飲食物だけで過ごす、しかも、「スーパーサイズ(日本の特大サイズよりずっと大きなサイズ)を勧められたら、断わらない」という極端な食生活を監督自らが試し、肥満・高脂血症・高血圧となっただけでなく、まるでアルコールの慢性多量摂取のように肝機能まで悪化する、というのが映画の筋です。
 もちろん、家庭科等の授業でこのDVDを生徒に見せるときは、マックだけが問題ではないことや、強調し過ぎている部分をしっかり伝える必要があります。
無批判に受け入れてほしいわけではありません。
 筋は単純ですが、ちょっとした旅行では見ることの出来ない、アメリカの食生活の一端が見られますし、笑える工夫満載。
とはいえ、たった1回、この映画を字幕でみただけでは、「何を言いたいのか、把握が難しい。」かもしれません。

 そこでお薦めする本が「食べるな危険!!」です。本書の映画に関する記述の一部を要約すると次のようです。
 この映画は海外でも公開され、監督が5ヶ月間で20ヶ国以上を訪問しましたが、日本だけ、どのテレビやラジオ局もインタビューなしでした。アメリカ以上に日本は文化的に企業の支配に従順で、日本のメディアは特に広告主に対して従属的、今回のことは多くのメディア操作の一例にすぎない、とモーガン監督は考えます。
 「悲しいことに、日本はアメリカ式ファストフード食が健康的な伝統的食習慣を最も激しく破壊した国の一つなのだ。」(本書p.362)の部分が、私としてはとくに悲しいです。
私と同世代の方々は、小学校の給食を思い出すとうなずけるでしょう。パンばかりで、ご飯が主食になることがなく、おかずも洋食・中華が多かったですよね。しかも汁物とみかんの上に牛乳がつくという、食べにくい組み合わせでした。
 私の子どもの小中学校の給食は、ご飯を主食とする和食もあるという点では評価できます。が、従来の洋・中に加えて、韓国といった外国の食が入ってきて、和食の割合が少なめではないか?と心配になります。
 だからこそ「和食」の大切さを、チャンスがあるたびに訴えて行きたいものです。
 余談になりますが、私が同窓会に参加する際、わざわざ職場から家に帰り、慣れない着物で出かけることがあるのは、着るものは強いメッセージが伝わる場合があるからです。残念ながら、女優のような見た目のオーラがないので、ほとんど無意味のようですが・・・。
ところで女優さんといえば、同期の大塚様が映画やテレビでご活躍です。それぞれが自分の能力・個性に応じて社会に貢献できれば幸福と考えれば良さそうです。話がそれました。
 「食べるな危険!!」p.375の、栄養学者マリオン・ネッスルのことばを言い換えて次のように表現しているのは、食分野の消費者教育として、もっとも大事なことでしょう。
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 フォークで口に何か食べ物を放り込むたびに、
 僕たちは何らかの立場を取っているのだ。
 「これが僕の立場だ。これが僕の信念だ。
 自分のために、家族のために、未来のためにこれを望んでいるのだ」と。
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 なお、もっと硬い文章で、長編でもかまわなければ次の書籍が本格的です。
□「フード・ポリティクス 肥満社会と食品産業」
   マリオン・ネスル著 三宅真季子・鈴木眞理子訳 新曜社 (2005)
  “Food Politics:
   How the Food Industry Influences Nutrition and Health”
   Marion Nestle, University of California Press (2002)

 食に限らず、とかく「自己責任」を問うことが多くなってきました。また、
「食の問題は基本的には個人や家庭の問題」などと言ったり、書いたりしている人もあります。
しかし、今回挙げた映画や本に触れれば、企業やマスコミも含めた、社会的な根深い巨大な問題が存在することを認識されることでしょう。そういう意味からも、学校教育・社会教育の中に、食についての教育を位置づける重要性をご理解いただけるでしょう。