現代音楽って?

 第1回  ウインドオーケストラ
          @サントリーホール


               池田 悟 (高31)
初めまして。
僕は現代音楽の作曲をやっています。

3月24日にサントリーホールで、ウインドオーケストラの曲が初演されることになりました。

 

《プラネタリウム―ウインドオーケストラのための》というタイトルのこの作品は、2005年に右手だけのピアノ曲として作曲し、スペインの国際ピアノ作品作曲コンクールで1等を受賞し(写真は賞状)、江戸川区の「タワーホール船堀」大ホールで自演したものをウインドオーケストラにしたもので、今回、コンサートの主催者から委嘱されて作曲しました。


コンサート後半の第2部で、小林恵子指揮、東京佼成ウインドオーケストラにより、 拙作と、同じく現音会員による委嘱作品、そして「第1回東京佼成ウインドオーケス トラ作曲コンクール」最上位入賞となったイギリスの作曲家の作品の、3曲の初演が あります。
東京佼成ウインドオーケストラは日本でナンバーワンの、世界的なプロ吹奏楽団(写真はリハーサル)であり、そのオーケストラが最先端の現代作品を初演し、コンサート前半の第1部では、中学校から社会人までのアマチュアの精鋭5団体三善晃、間宮芳生など日本を代表する作曲家の人気の高い、親しみやすい作品を演奏しますので、どんな方にとっても必ずや聴き応え十分となるでしょう。

ちなみに‘wind’は「管楽器」を意味し、「ウインドオーケストラ」とは、管楽器と打楽器だけのオーケストラのことで、通常のオーケストラには無い特殊な管楽器があったり、クラリネットが13人もいたりする、とっても刺激的なオーケストラです。

以下、自分のブログから関連記事を3つ、ご紹介します。

スコアは上から順に…ピッコロ→フルート→オーボエ→ファゴット→クラリネット→サックス→金管→パーカッション。
この並びは即ち、音色(倍音)の淡い楽器から濃い楽器へ、強弱の幅の狭い楽器から広い楽器へ…の序列であり、言わば楽器間の弱肉強食の力関係をも示している。

同時に、それぞれの楽器グループ内では、1番から2番、3番…と下に行くほど、発言内容が控え目になっていく。

クラリネットなどはB♭管だけで9人もいるから顕著だ。
6〜9番奏者達は沈黙を守りつつ、時にはがっちりとした背骨となって上位パートの細かい動きを支え、また時には刷毛でさっと刷いた輪郭線の残像のごとく、音の織物をソフトに包み込む。

その結果オーケストラ全体は、あたかも大きな風景のような―近くの物は色鮮やかなのに、遠くの物ほど淡いグレーのモノトーンになる―グラデーションを実現するだろう。 
 2006・09・09)

 ピアノ曲をオーケストラに編曲する際、ピアノの休符をそのままオケの休符にする訳には行かない。ピアノの休符の殆どは、実際には前の音がペダルで延ばされているからだ。
これに気づかず、楽譜通りオケも休符にしてしまうと、緊張感の途切れた、間の抜けた、まるで落とし穴に落ちたような瞬間が生ずる。

また、休符が無い場合も要注意だ。

1小節で音が終わっているように見えても、ピアノでは実際はペダルでその小節全体の響きが延ばされていることが多い。1小節目の響きの上に2小節目が重なり、これら2小節分の響きの上にさらに3小節目が重なり…というように。
しかしこういう場合でも、ピアノの楽譜は、各小節で弾かれる音しか書かれず、残響まではいちいち書かない。
だからその効果をオケに移すには、それぞれの残響のパートを新たに作ることになる。

ただし、何でもかんでも、ペダルの時は音を引き延ばせば良い、というものでもない。

その例がスフォルツァンド。スフォルツァンドの箇所でもペダルを使うが、この場合は音を延ばすためではなく、倍音を増やして音を目立たせるためだから、他の場合と同じように、ビィーッと音を長くしたら、全然ピリッとせず、目立つどころか埋没してしまった。
逆に、実際の譜面よりも短めの、スタッカートにしたらしっくり来た。
 
…極めてピアニスティックに書かれた原曲を、どこまで「極めてオーケストラ的」に編曲出来るか。

そう考えると―Transcription(編曲)―もなかなか創造的な仕事だ。  
20060709

 絢爛たる音色、圧倒的なダイナミズムを持つ吹奏楽(ウインドオーケストラ)の名作―それらを聴くほどに、一方でなぜ?と思うほど単調に感じてしまう。
その最大の理由の一つは、転調が無いことではないだろうか。

ワーグナーもどき、R.シュトラウスもどき、マーラーもどき、ラヴェルもどき、ショスタコーヴィチもどき…なるほど、後期ロマン派風の魔術のようなオーケストレーションを施された佳曲は数あれど、それらの殆どはせいぜい近親調以外に転調しない。
ロマン派の音楽は遠隔調への自由自在な飛躍こそ古典からの脱皮の象徴であったはずなのに。

移調楽器の集合体故か(管楽器は転調が苦手)?それとも、転調したら音域の無理な楽器が生じ、その都度アレンジし直さなくてはならず、面倒くさいからか?
或いは管楽器ばかりの様々な音色による異種混合集団ゆえ、楽器自体が持っている色彩のコントラストと比すれば、転調の効果など微々たる物、と衰退してしまったのか?…あたかも季節の変わらぬ、年中燃え盛っている熱帯雨林の如く。
 
結果的に、シャコンヌや変奏曲などは得意で、交響曲と称するものでは「まがい物」の感を免れない。なぜなら、交響曲では転調こそ最大の構成原理だから。


しかし、そう言えば「現代音楽」も、とうの昔に調性による作曲法を捨てた。
調的概念の無い(乏しい)ことでは、吹奏楽と通じる、とも言える。
現代音楽が、転調に匹敵する効果を転調という手段を用いずに作れるかどうか…。
その試金石として奇しくも、吹奏楽という媒体は打ってつけだ。

2006・05・17) 

さて、ご興味を持っていただけましたでしょうか?

より詳細な作曲の経緯は、
ブログ(カテゴリ:作曲・新作発表)をご覧下さい。

http://satoru-ikeda.blog.ocn.ne.jp

 プロフィール
http://satoru-ikeda.blog.ocn.ne.jp/about.html


吹楽(すいがく)IV ─日本の吹奏楽の祭典─   

2007年3月24日(土)サントリーホール 大ホール
開演13:30 (開場13:00)
チケット 全席指定 S席3000円、A席2500円、B席2000円

★同窓会関係者S席2500円にてご提供させていただきます。  
 連絡先 mailto:satoru@circus.ocn.ne.jp  池田悟

1部

 東京都小平市立小平第三中学校吹奏楽部 指揮 中村睦郎
 間宮芳生/カタロニアの栄光  保科 洋/風紋
 
 埼玉県立伊奈学園総合高等学校吹奏楽部 指揮 宇畑知樹

 森田一浩/ファンファーレ 矢部政男/マーチ・エイプリル・メイ 
 八木澤教司/太陽への讃歌―大地の鼓動

 
 埼玉栄高等学校吹奏楽部 指揮 大滝 実

 天野正道/La suite Excentrique より 第1、2、4楽章
 
 土気シビックウインドオーケストラ 指揮 加養浩幸

 小山清茂/吹奏楽のための「花祭り」
 兼田 敏/日本民謡組曲「わらべ唄」
 
 川越奏和奏友会吹奏楽団 指揮 佐藤正人

 鈴木英史/鳳凰 仁愛鳥譜
 三善 晃(天野正道編曲)/「竹取物語」より

2部

 東京佼成ウインドオーケストラ 指揮 小林恵子
 池田 悟/Planetarium for wind orchestra(「吹楽IV」委嘱作品・初演)
 河添達也/Parataxis II ウインドオーケストラのための(「吹楽IV」委嘱作品・初演)
 バーナビー・ホーリントン/Con Brio
 (第1回東京佼成ウインドオーケストラ作曲コンクール最上位入賞作品・初演)

主催:日本現代音楽協会 http://www.jscm.net/
    朝日新聞社
    東京佼成ウインドオーケストラ

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